「VCエクスプレス」は途中下車できるのか?

INITIALのスタートアップファイナンスはいつも拝読している。シリコンバレーを中心とするグローバルなスタートアップファイナンス市場とデカップリングされている日本において、2023年にどのぐらいの金額が日本のスタートアップに投資されたのか? 2023年のフルレポートが待ち遠しい。

シリコンバレーでは今、ベンチャーキャピタルから資金調達をしたものの、できることなら、そのレールから降りたいと考えているスタートアップの創業者が多いらしい。

英語になるが、興味のある方は、Precursor Ventures というシード・アーリーステージにフォーカスしたVC創業者 Charles Hudson のニューズレターを読んでみて欲しい。非常にシャープな視点の持ち主で、多くの読者が付いている。

シリコンバレーでは、シード資金を調達したファウンダーで、シリーズAに辿り着けるのは、極一握りの人たちだ。

crunchbaseによると、米国のシリーズAに投資された資金は、2021年Q4「US$14.38B (約2兆円)」から、2023年Q1「US$4.45B (約6,300億円)」と、1/3 以下に急降下していおり、その後はフラットな状態が続いている。そのような状況を踏まえて、これ以上、VCからの資金調達を必要とするビジネスをすることに不安を感じても不思議ではない。

僕は2000年に、インタースコープというインターネットリサーチ(以下、ネットリサーチ)のスタートアップを共同創業し、ベンチャーキャピタルから資金調達をした。当時はビットバレーなるムーブメントの真っ只中で、ネットリサーチ市場に参入している会社は、優に100社を超えていた。

その中で、後に当時の東証マザーズに上場し、その翌年に東証一部に移籍上場したマクロミル、2005年にYahoo! JAPANにM&Aでエグジットしたインフォプラント、そして、僕たちのインタースコープ(2007年2月にYahoo! JAPANにエグジットし、インフォプラントと経営統合)が頭角を現し、業界の御三家と言われるようになった。

その中で最もVC投資(VCから資金調達をし、事業を急成長させる)に向いていたのはマクロミルだった。

マクロミルはリクルート出身のメンバーが立ち上げたスタートアップで、対売上高営業利益率が30%という、超高収益なビジネスモデルだった。

インフォプラントは、テレビ番組の制作プロダクションを経営していた大谷さんという方が立ち上げたスタートアップで、収益性は高いとは言えないが、御三家の中で、一番最初にスケールした。典型的な「破壊的イノベーション」の事例だった。

インタースコープはというと、御三家の中で最もCutting Edge(イノベーティブ)なビジネスをしていたが、あまりに多くのことをやり過ぎていて、スケールさせるには、フォーカスが必要だった。

マクロミルの財務データを見てみたところ、2022年度の売上498億円、EBIDA86億円。ネットリサーチという市場自体が成熟しており、新しいビジネスを創造する必要があり、株価的には苦戦しているが、売上&利益の絶対額としては素晴らしいと言える。

ところで、何事にも向き不向きがある。

僕がサンブリッジ グローバルベンチャーズというアクセラレーターを経営していた時、まさしく、今回のポストで書いているようなことがあった。

ある投資先で、創業者全員がエンジニアで、非常にイノベーティブなプロダクトを開発している会社があった。元々は「受託」事業をしていたが、スケールさせる事業を作りたいと思っていたようだった。

僕らが投資する際に、創業者たちに訊いたことがある。リスクマネーを受け入れるということは、スケールさせることが「至上命題」になる。そのゲームに挑む覚悟があるのか?と。

答えは「YES」。僕たちは投資を実行した。

しかし、人間はそう簡単に変われないのと同じように、会社もそう簡単には変われない。会社を経営するのは人間なので。

彼らは極めて技術力が高く、素晴らしいプロダクトを開発していたが、細部に対する拘りが強く、Duffusionというと語弊があるかもしれないが、スケールさせるために「機能と価格」を押さえた廉価普及版を開発し、量を狙っていくことは、ネイチャー(性質)やDNAとして、抵抗感があったのだろう。

頭では理解していても、心が付いてこないというか、経営者として事業をスケールさせる(ビジネスを成功させる)ことには、モチベーションを持てなかったように思う。

結局、お互いによく話し合った結果、僕らは投資した時に半分のバリューで、彼らの株を彼らの関係者に譲渡した。考えられる選択肢の中では、ベストな結果だったと思う。久しぶりに彼らのウェブサイトを見たが、活況が見て取れた。元気に楽しくやっているようだ。

ところで、日本では「小粒上場」に関する問題提起がされて久しいが、それがネットバブル以降、日本のスタートアップエコシステムを成長させることに寄与してきたことは否めない。

各国やエリア毎にカルチャーやエコシステムが異なるわけで、シリコンバレーを真似しても上手くいくことはない。ネットバブルから四半世紀が経ち、2022年には「1兆円」近い資金が日本のスタートアップに投資されるまでになった。

今後の日本のスタートアップエコシステムの成長に必要不可欠なのは、いかにして「Globalized & Diversified(グローバル化と多様性)」を実現していくかである。

自分なりに出来ることをして行きたい。

謹賀新年!Happy New Year 2024!

明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い申し上げます。

ここ10年は毎年元旦は実家に帰省し、裏磐梯のグランデコスノーリゾートでスキーをするのが恒例になっていたが、今年は子どもたちの「ダブル受験」があり、東京の自宅で過ごしている。

Facebookへの初投稿もゲレンデの写真を載せることができず、ChatGPT4 (DALLE-E) にpromptを出し、イラストを描いてもらった。英語でprompt を書いたせいか? 僕だけ西洋人っぽい顔になっているw。

他のイラストでもそうなのだが、どうもChatGPTは「算数」が苦手らしい。僕は「二人の子供たち」とスキーに行った絵とリクエストしたのだが、僕以外に「3人」の子供たちが描かれている。実は、最初に頼んだイラストは、リクエスト通り、僕と2人の子供たちが描かれていたのだが、2024 という数字を入れることを伝えるのを忘れており、もう一度、イラストを描いてもらったところ、子供が3人になっていた・・・。

でも、彼らの従兄弟(大学2年生)も一緒に行ったと思えば、悪くない。イラスト自体は、3人バージョンの方がイイ感じなので。

ところで、今年の抱負を書く前に、2023年を振り返っておくことにする。

With the three founders. Guy at left, Erez at my right side, Osnat at right at the old office in 2017.

僕にとって2023年は、兎にも角にも「The year of Infarm」だった。

2023年1月12日 (木)、日本時間18:00、Infarm 創業者の一人、CEOのErez との臨時のMTGがあった。

その翌週の火曜日に、彼との月イチの定例MTGが予定されていたにも関わらず、彼の秘書からメールがあり、1/12 (木) にMTGがセットされた。あと数日待てば話ができるにも関わらず、急遽、MTGがセットされたということは、つまり、悪いニュースだろうことは容易に想像がついた。

Zoom 越しに彼の顔が映し出され、新年の挨拶をした後、僕は「It must be bad news, right?(きっと悪い知らせなんだよね?)」と訊いたところ、「Yes. Unfortunately, the board decided to shutdown the Japan operation.(そうだ。取締役会が日本市場からの撤退を意思決定した。)」という返事だった。

When should we close our business?(いつまでに閉めればいい?)」と訊くと、「Yesterday.(昨日までに)」という単語が返って来た・・・。

その後のことはブログにも書いたので、ここで改めて書くことはしないが、Infarmに投資し、日本法人を設立、そして、約3年に渡って経営してきたことは、僕にとっては得難い経験になった。

野菜を生産しているとはいえ、収益構造的には「完全な製造業」であり、多額の「設備投資」が求められる事業で、累計「US$604.5 million(USD/¥142で計算すると約860億円!)」を資金調達をするような事業は初めてだった。もちろん、すべての資金調達は本国側で行っており、日本法人としてファイナンスしたわけではないが、そのダイナミズムは株主としても、日本法人の経営者としてもヒシヒシと感じていた。

Infarm はベルリン発祥で、日本を含めて「11ヵ国」で事業をしており、一時期、1,200人ほどの従業員がいた。ドイツ企業にも関わらず、ドイツ人比率は、おそらく2割程度しかいなかっただろうし、英語がネイティブなスタッフも同じく2割程度だったと思う。そして、国籍はなんと「50ヵ国」以上あった。当然、社内公用語は「英語」だった。

また、日本法人の経営者だった僕は、約20人ぐらいが参加する、四半期に1度の幹部会議に呼ばれていたが、彼らの国籍も10ヵ国ぐらいで構成されていた。

そのような「多様性と国際性」に富むスタートアップの経営陣の一角としての経験を踏まえると、日本のスタートアップは「モノクローム」に見える。創業者は全員、日本人、従業員もほぼ全員、日本人。株主も日本のVCや日本企業、顧客も日本企業 and/or 日本人という構造では、グローバルな事業を創るのは極めて困難だろう。

今のところ、世界第3位のGDP(市場)があるが故に、ガラパゴス化して成長していけるが、出生率や移民政策が大きく変わらない限り、わざわざブログに書くまでもなく、確実に市場は縮小していく。

ところで、昨年12月21日(木)、僕が株主の一人でもある「Musashino Valley」というStartup Studio 兼 Co-working spaceで、サンブリッジ時代から行ってきた「シリコンバレーツアー」の「拡大同窓会」なるイベントを行った。

新卒でアップルジャパンに就職し、10数年を経て「チカク」というスタートアップ(アップルでの経験を活かし、IoT端末を開発!)の創業者のカジケン(梶原健司さん)と、FinT というスタートアップの創業者で、ツアー参加当時は大学1年生だった大槻祐依さん、そして、Musashino Valley の運営企業の創業者で武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学部長の伊藤羊一さんを交えて、我々日本人にとってのシリコンバレーという存在の意味や影響力、そして、事業を立ち上げて成功させるために必要なことに関して、ざっくばらんにパネルトークを行った。

僕が最も印象に残っているのは、カジケンが説明してくれたアップルの「TOP100」と呼ばれていた(そう言っていたと思う)経営幹部を対象とした会議のことだ。

その会議に招集される経営幹部は、Steve Jobs がファーストネームを憶えている「100人」で、パソコンもiPhoneも取り上げられて、3日間、缶詰になり、会社(事業)の将来を議論していたという。

そこで、その100人は、Steve Jobs から、自分にとって「重要な10個のテーマ」を書き出すように言われ、それを発表した後、その内の「7個」は「捨てろ!」と指示されたという。

「選択と集中」。言うのは簡単だが、人間は「可能性があるものを捨てる」ことに躊躇するし、それには「勇気」が必要だ。ドラッカーのいう「劣後順位」というやつだ。

昨年、特に後半3ヶ月の僕は「欲張りすぎていた」と思う。次のビジネスやステージに進まなければいけないのは重々理解していながら、Infam日本法人の清算業務が終わっていなかったり、自分の年齢(昨年3月で還暦になった!)のことが気になったり、ある意味、ありがたい話だが、欧州のFoodTech系スタートアップから日本市場参入に関する相談があったり、投資先の資金調達を手伝ったりと、何だかんだと慌しくしており、焦っていたのだろう。

そんな時、カジケンの話は「胸に突き刺さった」。あのパネルトークはマジで勉強になった。

それからもうひとつ。昨日の紅白で久しぶりに「ルビーの指環 (音が出ます!)」を熱唱した「寺尾聰」は、なんと76歳!という事実を知り(今朝、とある知り合いのFB投稿で知った)、勇気をもらった。僕もあんな76歳になりたい!と思った。

そして、60代は、まだまだフルスロットルで行ける気がして来た!!

「獺祭(だっさい)」で知られる旭酒造(山口県岩国市)の桜井博志会長は、70代で米国に拠点を移し、さらなる挑戦をされるそうだし!

2024年は、予てから温めていた日本のスタートアップエコシステムに「多様性と国際性」をもたらすことを目的とした、あることを立ち上げようと思っている。

近いうちに、このブログで詳細を説明したい!

Webサーチの終焉? Where Google goes?

1990年代後半、インターネットが我々の日常に浸透し始めると、ネット上の「コンテンツの著作権」に関する論争が湧き上がった。2001年9月、ネットバブル崩壊によりLay-offされ、失業状態にあったBenjamin Trott(Co-founder at Six Apart )が Movable Type を開発した。その結果、HTML(懐かしい響きだ)を書かなくても「コンテンツ」が創れるようになり、後のWebコンテンツ大量生産時代、いわゆる、Web2.0時代の到来をもたらすことになった。

日本では梅田望夫氏の「ウェブ進化論(2006年」が発刊され、その概念が広く理解されるようになる。

当時のマスメディア側は、彼らのコンテンツをインデックスするGoogle に対して、自分たちのコンテンツを「盗んでいる」として、その対価を支払うように主張していた。

ところが、AIがより一層、社会に浸透することによって、Google による「Webサーチ」とその結果として生じる「トラフィック」が激減する可能性をメディアは理解し、Googleが「検索」ビジネスを止めること心配している。そういうGoogleも収益の大半を「検索連動型広告」に依存しており、AIの浸透により、人々のウェブ上の行動パターンが変化することは大きなリスクである。

例えば、ChatGPT4に「How much of the operating profit of Google comes from search-related advertising?」と質問すると、以下のような回答が返って来る。

つまり、Google で検索する必要はなく、Alphabet がSECに提出した「FORM 10-Q」のページは表示されないし、そこへのリンクも貼られていない。つまり、ウェブ上の「トラフィック」自体が無くなるということだ。

2023年第3四半期のAlphabet の収入「$76.7 billion(約10兆8,914億円)」の内、検索連動広告による収入は「59.6 billion(約8兆4,632億円)」で「約78%」を占めている。FORM 10Q」はこちら(P12を参照されたし)。

もちろん、ChatGPTは、SECのサイトをクロールしているわけだが、人間が見に行っているわけではなく、広告を表示しても意味がない。

そのような中、ドイツの大手メディア「Axel Springer」が、Open-AIと長期の契約を結び、ChatGPTの「学習」のために、彼らが運営するメディアのコンテンツの利用を許可すると発表した。言うまでもなく、メディア業界に激震を走らせた。

また、Wall Street JournalSimilarwebのデータを元に分析したところ、Google はメディア全体におけるトラフィックの「40%近く」を生み出しており、「リファラル」の最大シェアを占めている。

それが仮に消失したとしたら、Google にとっても、メディアにとっても生存を揺るがす事態になるのは言うまでもない。

そのような危機感の表れなのだろうか、Google は12月6日、「Google Gemini」なるAI プロダクトをリリースした。

その「ビデオ」では、AIが(視聴者のように)人の行動を見て、リアルタイムで反応しているように見えるが、実際にはそうではなく、それは「フェイク」だった。彼らはそれを事前に録画し、応答するために、Gemini にビデオの個々のフレームを送信し、さらに表示されているよりも有益なプロンプトを送信し、さらにGemini の返信をより短く、より適切なものに編集している。

Google は今後、どのような判断を下し、どのような事業戦略のもと、事業を推進していくのだろうか?

最後にもう一つ、興味深いニュースをお伝えしたい。

2024年に開局予定のLos Angeles にある新しいテレビ局「Channel 1」は、人間ではなく「AI が作成したキャスター」をプレゼンターとして起用する、アメリカ初の全国ネットのシンジケート・ニュース局になろうとしている。

これは、かなり面白い試みだ!日本にいても見れるのかどうか分からないが、自分の情報を登録できるようになっており、早速、登録しておいた。

2024年は、我々が想像すらしていなかったビジネスやサービスを見ることができそうだ!

それでは皆さん、良いお年をお迎え下さい!

ユニコーン狂想曲の終焉。Massive write-off or bonfire of Unicorns?

未だにおカネの値段が「タダ」の日本と、政策金利が5%前後で、銀行に預けておけば、複利で回ると12年で1.7倍、14年で2倍になるアメリカや欧州では、世の中の景色が大きく異なる。

幸か不幸か日本のスタートアップエコシステムは、世界のそれと「デカップリング(decoupling)」されており、幸いにして、今のところ、そのような兆候は見られないが、シリコンバレーでは「不良債権」と化した「多数のユニコーン」が、事業の閉鎖に追い込まれている。ユニコーンとはいえ、黒字化には程遠いスタートアップが大半であり、2024年には、その数はさらに増えると予想されている。

PitchBook が New York Times のためにまとめたデータによると、2023年、約3,200社の未公開スタートアップが倒産した。そして、それらの未公開スタートアップに投下されたベンチャーキャピタル(VC)の資金は「272億ドル(現在の為替レートで約3兆8,624億円!以下、同様に計算)」に上る。

未公開企業は、倒産や不名誉な売却の際にその事実を公表する義務が無いため、全体像を把握するのは難しく、実際にはそれ以上の数のスタートアップが倒産もしくは不本意な事業売却を余儀なくされている可能性がある。

尚且つ、WeWorkのように上場している会社やHopinのようにスポンサー(新たな投資家)を見つけた企業の多くは統計データに含まれていない。

直近で言えば、マイクロソフトからの買収オファーを拒否したこともあり、a16zやKhosla Ventures という錚々たるVCの投資先でもある「D2iQ」は2023年12月8日、事業を閉鎖。累計US$247.3M(約352億円)を調達し、大型ユニコーンとして君臨していたが、現地時間で12/7(木)、同社を清算し、債権者に資産を分配するという通知を株主に送ったと報じられている

また、ボストンを拠点とする著名ベンチャーキャピタル「OpenView」は12月5日、従業員の半数を解雇し、新規投資を中止すると発表した。事実上の事業廃止である。

同社は7つのファンドで「US$2.4B」を運営しており、第7号ファンドだけで「US$570M」を調達し、高成長のソフトウェア新興企業に投資していた。例えば、日本でも多くのユーザーに利用されているCalendly も同社の投資先である。僕も時々、使っている。

Forbes, The Information, Venture Capital Journal, TechStartups等、米国の主要メディアが、その突然の発表を報じているが、2人のGP(General Partner)が退任したこと、2020年に組成した6号ファンドの投資成績(内部収益率)がマイナスになっていること等以外、何が今回の決断の核心なのかは明らかにされていない。約5%という金利水準の米国にあって、それを凌駕するパフォーマンスを実現することのプレッシャーが大きいことも、今回の決断の要因ではないかという見方もあるようだ。

ベンチャーキャピタルという事業は、Limited Partnerと呼ばれるファンドへの投資家から預かった資金を大きな成長が見込めるスタートアップに投資し、約10年に渡り、その資金を運用するというビジネスモデルである。一般的にファンド総額の2-3%を「管理報酬(投資活動経費)」として受け取りながら投資活動を行うため、経営が成り立たなくのは稀である。ましてや、米国でも有数のVCであるOpenViewが事実上の事業廃止に至ったことは、VC業界はもとより、投資を受ける側のスタートアップにも大きな衝撃だったことは想像に難くない。

From 2012 to 2022, investment in private U.S. start-ups ballooned eightfold to $344 billion. The flood of money was driven by low interest rates and successes in social media and mobile apps, propelling venture capital from a cottage financial industry that operated largely on one road in a Silicon Valley town to a formidable global asset class akin to hedge funds or private equity.

During that period, venture capital investing became trendyeven 7-Eleven and “Sesame Street” launched venture funds — and the number of private “unicorn” companies worth $1 billion or more exploded from a few dozen to more than 1,000. (Dec 7th, 2023. quate from The New York Times)

ニューヨーク・タイムズによると、2012年から2022年に掛けて、米国における未公開スタートアップへの投資額は、低金利を背景に、ソーシャルメディアやモバイルアプリの隆盛と共に「約8倍」に膨れ上がり、その額は「US$344B(約50兆円)」になった。

以前は、シリコンバレーのある通り(Sand Hill Roadで「家内手工業(職人芸)」的に営まれていたビジネスが、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドも参入する強大な世界的資産クラス(Asset Class)への押し上げられた。

一時期は「セブン-イレブン」や「セサミストリート」までもがVCファンドを立ち上げ、数10社しか存在しなかった「ユニコーン」は「1,000社」を数えるまでに増大した。統計データは持ち合わせていないが、その8割は赤字だったと思われる。僕がシードステージで投資し、日本法人を経営していたInfarm」も、まさしく、その一社だった。

何事にも終わりがあるように、「我が世の春」を謳歌していたスタートアップもVCファンドも、日本の外では、極寒の冬を迎えている。そして、それは恐らく「長い冬」になるだろう。

新たな春を迎えるには、不良債権と化した大量のユニコーンを「償却」する必要がある。言うまでもなく、大きな傷みを伴うことは避けられない。

そのよな極寒の冬において、繁栄している分野のひとつは「失敗」をビジネスにする企業らしい。

SimpleClosure というスタートアップは、法的書類の準備や、投資家、ベンダー、顧客、従業員に対する債務の清算などのサービスを提供しており、需要に応えるのが精一杯だという。

翻って、日本はどうだろうか?

岸田政権は「スタートアップ5か年計画」で、ユニコーンを100社に増やすという方針を掲げているが、はたして、ユニコーンを100社に増やすというのは目指すべき目標なのだろうか?

もちろん、事業を大きく成長させた結果、大きな時価総額として評価されること自体は良いことだが、そのためには、法整備や株式市場のあり方等を含めて、環境整備が必要不可欠である。

日経新聞の記事中で冨山氏が言及されているように「日本がグローバルVC投資市場に組み込まれていない大きな要因が、会社組織や株主間契約などの慣行が日本独自になっている一種のガラパゴス化にある」。

もうひとつ、創業者はほぼ全員日本人で、投資家も日本のVC、日本企業、日本人のエンジェル投資家従業員もほぼ全員が日本人顧客も日本企業あるいは日本人という状態では、日本のスタートアップのグローバル化はあり得ないだろう。

そこに一石を投じる仕組みを創りたいと思っている。

Sam Altman (サム・アルトマン) 解任と「変化を恐れる日本社会」。

昨夜(2023年11月18日)のニュースキャスター(TBS)が紹介した調査結果によると、日本においてOpen AI のChatGPTの利用経験がある人は、約15%だという

僕はその15%に含まれる1人だが、ChatGPTだけでなく、その競合にあたる「pi.ai」や「Midjourney(画像生成系AI)等、いくつかのAIを使っている。特に、Midjourney は、このブログのカバー画像(イラスト)の作成で重宝している。

昨年11月にローンチしたChatGPTは、わずか1週間で100万人、2ヶ月で「1億人」のアクティブユーザーを獲得し、一気に世界的な存在となったことは周知の事実だが、そのCEOだった「Sam Altman (サム・アルトマン)」が、米国西海岸時間の11月17日、突然、解任された

様々なニュースや憶測がネット上を飛び交っているが、アルトマン氏解任の理由は、OpnAI 社内における「Profit v.s. Non-Profit (営利 v.s. 非営利)」に関する不一致のようだ。

別の表現を用いるなら、“effective altruism (e /a)” = 効果的利他主義 v.s. “affective accelerationism (e /acc)” belief in unfettered AI = 変革に対して前向きな見解を提示する哲学的な運動の対立と言える。

詳しくは、Keith Teare氏のNews Letter (That Was The Week) : The OpenAI Debacle – e /acc versus e /a を参照されたい。

OpenAI は2015年12月11日、Sam Altman や Elon Musk らによって設立された。そのことに対して、Elon Musk は、今年 (2023年) 2月17日、下記のようにTweet (post) している。

つまり、今のOpenAI は、Elon Musk が意図したような経営形態ではない。

一方、彼が言う「non-profit」は、上述の「effective altruism (e /a)” = 効果的利他主義」を意味しているのだろうか? 単に、ひとつの営利企業としてではなく、誰でもがそのメリットを享受できる「社会インフラ」にしたかったのではないか?

もうひとつ、Jason Calacanis の最近のポストは、今回の解任劇の真相を理解する参考になる。

僕はアメリカの会社法はよく理解していないが、非営利企業である「OpenAI, Inc.」が「OpenAI Global, LLC」という「営利企業」の上位に位置し、尚且つ、その中間に「従業員による中間持株会社」のような法人があるようだ。

そして、会社の経営方針や経営陣を任命する権限を有する「取締役会」が、OpenAIを「Non-Profit」の組織にしようとするメンバーによって占拠され、Sam Altman の解任というクーデターに発展した。

つまり、「営利企業」を「非営利企業の殻」に閉じこめようとした結果、権力が、非営利企業の取締役会に移ってしまったということだ。

次の質問は、では何故、Sam Altman は、OpenAI を「営利企業」として経営しようとしたのか?だ。

それは、ひと言で言えば、「莫大な金が掛かる」からだ。

OpnAI の年間売上は「約US$1.3B」あるという。今の為替レートで計算すると、約2,000億円になる。但し、OpenAI (おそらく= ChatGPT) の一日の運営コストは「約US$700M (同約10億円)」だそうだ!

つまり、年間で「約3,650億円」の費用が掛かっていることになる!

そのような事業を運営するには、寄付や助成金では不可能だろう。

なので、Sam Altman は、マイクロソフトから約1兆円の投資を受け入れ、OpenAI を営利企業として経営していく道を選んだのだと思う。

一方、彼は、短期的には「AI」が人々の仕事を奪うことになることを、当然のことながら熟知しており、その解決策として、World Coin なるプロジェクトを進めている。簡単に言えば、Universal Income(ユニバーサル・インカム)を実現するためのインフラのような位置づけだ。

自動車が「馬車」に取って代わったり、PBXが「電話交換手」という職業を無くしなり、ガラケーが「スマートフォン」に取って代わられたりと、新しいテクノロジーの出現は、短期的には「社会に痛み」をもたらす。しかし、それを恐れていたら、人類は進歩できないし、今日の繁栄は築けていないだろう。

翻って、日本社会はどうだろう?

「失われた30年」と言われていることが、その答えを物語っている。

ライドシェア導入の是非を巡る議論の本質は何か?

今回のSam Altman の解任劇は、我々に何を突きつけているのか?

そのことをよく考える必要がある。

YCは賞味期限切れのビジネスモデルか?

僕がドリームビジョンという会社を始めたのは2006年3月。当時はアメブロでブログを書いていたが、今のウェブサイトにリニュアルした時、それまでアメブロで書いていたブログを全部、ドリームビジョンのサイトに引っ越した。

当時のブログのタイトルは「3度目の起業と初めての子育て」というものだったが、その理由は長男が生まれた翌年だったから。

お気づきの方もおられるかもしれないが、つい先日、ブログのタイトルを変更した。

「起業家はコトラーを読まない」。その心は、近日中にこのブログで説明する予定だ。

今日は、このエントリーのタイトルについて話をしたい。

シリコンバレーに住んだこともない僕が、シリコンバレーのVC(ベンチャーキャピタル)のことを論じるのは少々気が引けたりもするが、英語の文章を読むのが苦にならない人ばかりではないし、むしろ、苦になる人の方が多いだろう。

その推測を踏まえて、サンブリッジ時代に知り合い、その後も親しくしている、TechCrunch共同創業者で、現在は「SignalRank」というA.I.+FinTechスタートアップを経営しているKeith Teare のNewsLetter から得た知識をもとに、僕なりの考察を加えて、シリコンバレーにおけるベンチャーキャピタルの今をお伝えしたい。

そもそも、ベンチャーキャピタルというのは、儲かるビジネスなのか?

San Francisco, San Diego, New York City にオフィスのある「Correlation Ventures」のGeneral Partner, David Corts氏 が、米国のベンチャーキャピタルに関するとても興味深いデータを紹介している(下のグラフ参照)。

上のグラフの「Financings」は「投資ラウンド(投資案件)」、「Dollars」は「投資回収した金額」を指していると思われる。

過去10年間(2013-2022)に「EXIT」したスタートアップの投資案件のうち、「10倍以上」のリターンを生み出したのは「4%未満」であり、「48%」は「1倍未満のリターン(損失)」要するに「案件の半分」は「儲からない」ということだ。

「1-3倍」の明細が書かれていないので、その分布は分からないが、仮に、平均倍率が「2倍」だとしよう。

米国のVCファンドの運用期間は「10年」が一般的であり、LPの合意が得られれば、2年間の延長ができる。つまり、最大12年間の運用が可能ということだ。

現在の米国の金利は「約5%」。1,000万円12年間銀行に預けたとしよう。複利で5%で回ると、約1,700万円になる。因みに、14年で2倍になる。

銀行に「5%」の定期預金で預ければ、確実に1,700万円になって戻ってくる 。しかし、米国でVCに「1,000万円」を投資すると、50%の確率で損をする、ということだ。

但し、LPとしてVCに投資した場合、「4%」の確率で「10-20倍」になり、「3%」の確率で「20倍以上」になる。これがVCに投資する意味である。

そのVCは「ユニコーン」を引き当てられるのか? それにすべてが懸かっている。

因みに、2016年に、crunchbaseのデータをもとにKeithが分析した結果、1社でもユニコーンを引き当てられたことがある米国のファンドは、約6%だった。

ベンチャーキャピタルというのは、典型的な「Power Law(べき乗)」のビジネスということだ。

David は他にも非常に示唆に富むデータを紹介してくれている。

上のグラフは、EXITした年ごとに、投資した金額が「1倍未満(損失)」の結果にしかならなかった割合と、「10倍以上のリターン(勝者)」を実現した割合をプロットしたものである。

興味深いのは、2020年、2021年、つまり、パンデミックの時期にEXITした投資案件は「損失となった割合」が「18%」しかなく、2021年に関しては、10倍以上になった割合が「6%」と、過去20年で最も高くなっている点である。

では、2020年、2021年に「IPO and/or M&A」でEXITしたスタートアップには、どんな会社があるのか? crunchbaseのデータを見てみた。

https://news.crunchbase.com/company-ipo-exits-list/

上のグラフが示すとおり、2020年、2021年、特に2021年はIPO等のEXITラッシュだったことが分かる。by Nameで見てみると、我々にとっての馴染みのある社名が並んでいる。

例えば、Coinbase (正確にはIPOではなく、Direct Listing = 時価総額 $86B, 2021), Rivian (同$66.5B, 2021), Robinhood (同$32B, 2021), Airbnb (同$47B, 2020), Doordash (同$39B, 2020) などがある。Airbnbは2020年のIPOで、$3.5Bを調達している。

もう少し遡り、2019年のIPOを見ると、Uber, Lyft, Cloudflare, Zoom, Slack, Beyond Meet等がある。

但し、注意する必要があるのは、2020-2021年のIPOラッシュ組の「現在の時価総額」だ。その殆どが、IPO時点のMarket Cap(時価総額)を大きく割り込んでいる。下記はcrunchbaseの記事をもとに作成した。

ご覧のとおり、過去10年間でIPOした上位17社(過去15年間に設立され、IPOしたスタートアップ)の内、IPO価格を上回って取り引きされているのは「3社」しかない。尚且つ、その3社(Airbnb、Pinterest、Snowflake)でさえ、初日の終値よりかなり低い水準にある。

このような現実を踏まえると、次に紹介する2人の指摘には、合点が行く。

まず、Slow Ventures というVCのGP (General Partner) の Sam Lessin 氏のNews Letter の内容を紹介したい。

“About 15 months ago I wrote a post on how seed investing was pretty clearly going to be in an 18 month timeout … that the capital ‘factory’ line would be shutdown until the inventory of dramatically over-marked late-stage private deals got worked through / washed out / expired on the line.”

彼は15か月前、シード投資案件は「18ヶ月」の「タイムアウト」に入る、つまり、その間は次のファイナンスができなくなる(という意味だと理解した)、というブログを書いている。但し、それはもっと長期化するだろうと、見解を改めたようだ。

“But will clubby seed investing on a capital pipeline through series A to Z firms to public exist in the future — I actually think no… will the YC playbook of how to start a company and finance it work any more? IMHO certainly notI think the whole factory is going to need to be shut-down and reconstituted.

簡単に言うと、とんでもない時価総額をつけられたいわゆるユニコーンという「在庫」の大半がIPOできず、あるいはIPOしても期待外れに終わるのであればY-Combinator (2005年設立) や500 startups (2010年設立)等、大量生産型のシード投資モデルが「Asset Class(資産クラス)」としての魅力がなくなり、次のステージの投資家がつかなくなる、ということだ。

IMHO (In My Humble Opinion) と断りを入れた上で、YC的な大量生産型の工場モデルは機能しなくなる、と言い切っている。次の資金調達ができず、タイムアウト(Time out)ならぬ、Cash out(清算)せざるを得ないスタートアップが大量に生まれると言いたいのだろう。

では、今後のシード投資はどうなるのか? 彼は、ハイリスク型のスタートアップを長期間に渡り所有するような「シード投資家」が現れるだろうとしている。

僕の理解では、投資して、Demo Dayでデビューさせた後は観客席で見守るのではなく、中長期の「オーナー(株主)」として、一緒に事業を育てていくような「シード投資家」が求められてくるということだと思う。

問題は、シェアをどう保つか?だ。その点においては、Hunter Walk というベンチャーキャピタリストが、”What I tell all new VCs about their first funds.“という、とても示唆に富んだブログを書いている。DeepL等を使って読んでみて欲しい。

次に、ベンチャーキャピタルとLP(VCファンドに資金を提供する投資家)との関係に関して、とても分かり易い解説をしている「fintechjunkie」という人物を紹介したい。

VCは新しくファンドを組成した場合、通常、最初の3年間程度で新規の投資をする。そして、ファンドの30-50%程度をフォローオン(追加投資)のために取っておく。

仮に、あるLPが3つのファンドにそれぞれ「$20M」ずつ投資する場合、合計$60Mの資金が必要になる。但し、最初から$60Mが必要なわけではない。何故なら通常、Capital Call方式といい、投資案件が発生した時点で、必要な資金をVCに払い込むからだ。最初から$60Mを払い込むわけではない。

https://twitter.com/fintechjunkie/status/1682737298708807680

Beginner’s Luck もあるのだろうが、新しいVCファンドが既存のファンドよりも高いパフォーマンスを出すことは珍しくないらしく、歴史を見ると、ファンドサイズの「5倍, 10倍, さらには20倍」になることもあったらしい。

ここで重要なのは「お金の出入り」である。

どのステージに投資しているか、また、その時の市況にも左右されるが、4年目ぐらいから、戦略的な売却 (資本業務提携)、セカンダリーマーケットへの売却IPO等の「EXIT」が発生する。

問題は、2017-2021年に掛けて、米国のVCはそれまでよりも速いペースで投資をしているが、株式市場やスタートアップの資金調達環境が悪化したことにより、投資した資金の回収が遅くなっていることだ。となると、LPに対する「分配金」が発生せず、LPはファンドに投資した資金を回収できず、Capital Call に対応するために、想定していた以上の資金を用意する必要が出てくる

“Making matters worse, valuations were much higher during this period which brings into question how many 3X+ funds there will be in the 2017-2021 vintages. And we’re already seeing markdowns and write-offs that highlight the issue.”

さらに厄介なことに、この時期(2017-2021)投資案件は「バリエーション」が高くなっている一方、市況の変化により、レイターステージで売却する場合もIPOやM&Aで売却する際も、それほど高いバリエーションがつかないだろう。

となると、3倍以上のパフォーマンスを出せるファンドがどれだけあるか? という疑問符がつく。そして、この問題を証明するように、既にダウンラウンドや償却が発生している。

そして、パフォーマンスが悪いVCは、次のファンドを組成することはできないだろう。

でも、彼は、この問題は恒久的な問題ではないという。明確な投資戦略や優れたトラックレコードを持つファンドは生き残るということだ。

また、スタートアップは、妥当なバリエーションで資金を調達し、少ない資金を前提として経営をし、資本効率を最優先したスケールを設計することになる。

その結果、これから組成するファンドは、2017-2021年に組成されたファンドよりも、高いパフォーマンスを実現することになるだろう。

以上が、Keith のNews Letter で読んだ3人のブログやTweet から、シリコンバレーのSeed-Early stage のVCファンドに関して学んだことだ。

少しでも参考になれば幸いである。

次回は、シリーズB以降のベンチャーキャピタルにどのような変化が訪れる可能性があるか? について書いてみたいと思っている。

Has Berlin changed?

今回のベルリンは2泊3日の短い滞在だったが、良く知っている友人たちに加えて、新たな出会いもあり、有意義だった。

僕が初めてベルリンを訪れたのは2015年11月。無謀にも初めてのベルリンで、Innovation Weekend というピッチイベント(予選)を開催した時だった。

あれから約8年。その頃のベルリンは、だいぶ物価が高くなってきたとは聞いていたが、それでも当時の為替レートで計算すると、レストランは東京の60-70%、場所にも拠るが、家賃は約半分くらいと言っていたと思う。

日本でもニュースになったりもしているので、ご存じの方もいると思うが、今では、1つの物件に、なんと申し込みが300件!もあるそうだ。

ベルリン州政府の住宅政策の問題や規制が影響しているのだろうが、移住者の増加に対して、新しい物件の供給が追いつかないらしい。日本では東京や大阪のような大都会でも考えられないことだ。

それでも、ロンドン、パリ、アムステルダム等と較べれば、ベルリンの生活コストは、1/2-1/3だという。今の為替レートで計算すると、ひょっとしたら東京よりも生活コストが高いかもしれない。

ベルリン市内を走るトラム写真は夜10時過ぎ。まだ明るい。2023年6月12日(筆者撮影)

昨年9月に引き続き、ベルリンを訪問したのは、ベルリン州政府が主催するAsiaBerlin Summitなるイベントに、今年も登壇者の一人として招かれたからだ。そこで、予期せぬ面白い出会いがあった。

集客協力の一環として、イベント運営者が用意した各登壇者の顔写真入りのバナーがあり、それぞれがLinkedInへ投稿する。すると、何人かから会場で会いたいという連絡を頂いた。

その中の一人に、アジア人の女性がいた。彼女はスペインのMBAで、ケーススタディの対象として、なんとInfarmを取り上げていたという!それで、シードステージの投資家であり、日本法人を経営していた僕に話を聞きたかったらしい。

さすがに話せることと話せないことがあるが、日本法人の経営者として、また幹部会議への参加を通じて、そして、投資家の一人として、パイロットファームしかなかったアーリーステージからユニコーンになるまでの過程を見てきたことを、可能な範囲で共有した。ユニコーンにもなると、そういうこともあるんだな…。

今日はいつものホテルをチェックアウトした後、日本企業が資金を出しているスタートアップスタジオ的な組織の責任者とお会いした。彼とは先日、Zoom で話をしたが、実際に会ったのは初めてだった。

MTGを通じて改めて感じたことは、日本は、日本語という言語とHigh Context なカルチャーによるInvisible Barrier があり、参入し難い市場ということだ。

その後は、両親のどちらかが日本人の友人を訪ねた。彼は非常にユニークなファンドを運営しており、ベルリンのとある場所にアパート(日本でいうマンション)を3部屋、購入している。写真を撮るのを忘れてしまったが、まだリノベーション中のアパートを案内してもらった。

彼がやろうとしていることは、その一部をCo-working spaceにすることと、市場価格よりも安く日本企業の駐在員に賃貸したり、僕のような出張者が泊まれるようにすることだ。

と同時に、日本人(に限らないと言っていたかもしれない)の起業家で、ベルリンでスタートアップをしようとしている人たちに代わり、とても複雑なドイツの行政手続き等を代行することで、事業やプロダクト開発に専念できるようにしたいと言っていた。

その理由は、日本にルーツを持つ人間として、不動産が高騰し、物件が逼迫しているベルリンにおいて、少しでも、日本人がビジネスをし易い環境を提供したいということだ。日本に対する思いはとても強いものを感じる。

彼と話をしながら思ったことは、僕の知り合いに限ったことかもしれないが、彼も含めて、両親のどちらかが日本人の友人の殆どは、日本ではなく、もう一人の親の出身国に住んでいるということ。つまり、彼らにとって、日本は好きな国だが、と同時に、住み難い国だということだ。それは、日本にとって、大きな損失である。

ラグビーの日本代表は、主将がニュージーランド人であり、外国人選手がたくさん含まれていたが、そのことに文句を言う人は誰もいなかっただろう。

少子高齢化が避けられない日本を再び活力ある社会にしていくためには、日本が好きな外国人が住み易い国にしていく必要がある。

少なくとも、僕はそう思っている。

さて、ノルウェーはどんな国なのだろうか? 初めてのオスロが楽しみだ。

スットクホルム経由でオスロに向かう機中にて(投稿は帰国後の自宅)