「VCエクスプレス」は途中下車できるのか?

INITIALのスタートアップファイナンスはいつも拝読している。シリコンバレーを中心とするグローバルなスタートアップファイナンス市場とデカップリングされている日本において、2023年にどのぐらいの金額が日本のスタートアップに投資されたのか? 2023年のフルレポートが待ち遠しい。

シリコンバレーでは今、ベンチャーキャピタルから資金調達をしたものの、できることなら、そのレールから降りたいと考えているスタートアップの創業者が多いらしい。

英語になるが、興味のある方は、Precursor Ventures というシード・アーリーステージにフォーカスしたVC創業者 Charles Hudson のニューズレターを読んでみて欲しい。非常にシャープな視点の持ち主で、多くの読者が付いている。

シリコンバレーでは、シード資金を調達したファウンダーで、シリーズAに辿り着けるのは、極一握りの人たちだ。

crunchbaseによると、米国のシリーズAに投資された資金は、2021年Q4「US$14.38B (約2兆円)」から、2023年Q1「US$4.45B (約6,300億円)」と、1/3 以下に急降下していおり、その後はフラットな状態が続いている。そのような状況を踏まえて、これ以上、VCからの資金調達を必要とするビジネスをすることに不安を感じても不思議ではない。

僕は2000年に、インタースコープというインターネットリサーチ(以下、ネットリサーチ)のスタートアップを共同創業し、ベンチャーキャピタルから資金調達をした。当時はビットバレーなるムーブメントの真っ只中で、ネットリサーチ市場に参入している会社は、優に100社を超えていた。

その中で、後に当時の東証マザーズに上場し、その翌年に東証一部に移籍上場したマクロミル、2005年にYahoo! JAPANにM&Aでエグジットしたインフォプラント、そして、僕たちのインタースコープ(2007年2月にYahoo! JAPANにエグジットし、インフォプラントと経営統合)が頭角を現し、業界の御三家と言われるようになった。

その中で最もVC投資(VCから資金調達をし、事業を急成長させる)に向いていたのはマクロミルだった。

マクロミルはリクルート出身のメンバーが立ち上げたスタートアップで、対売上高営業利益率が30%という、超高収益なビジネスモデルだった。

インフォプラントは、テレビ番組の制作プロダクションを経営していた大谷さんという方が立ち上げたスタートアップで、収益性は高いとは言えないが、御三家の中で、一番最初にスケールした。典型的な「破壊的イノベーション」の事例だった。

インタースコープはというと、御三家の中で最もCutting Edge(イノベーティブ)なビジネスをしていたが、あまりに多くのことをやり過ぎていて、スケールさせるには、フォーカスが必要だった。

マクロミルの財務データを見てみたところ、2022年度の売上498億円、EBIDA86億円。ネットリサーチという市場自体が成熟しており、新しいビジネスを創造する必要があり、株価的には苦戦しているが、売上&利益の絶対額としては素晴らしいと言える。

ところで、何事にも向き不向きがある。

僕がサンブリッジ グローバルベンチャーズというアクセラレーターを経営していた時、まさしく、今回のポストで書いているようなことがあった。

ある投資先で、創業者全員がエンジニアで、非常にイノベーティブなプロダクトを開発している会社があった。元々は「受託」事業をしていたが、スケールさせる事業を作りたいと思っていたようだった。

僕らが投資する際に、創業者たちに訊いたことがある。リスクマネーを受け入れるということは、スケールさせることが「至上命題」になる。そのゲームに挑む覚悟があるのか?と。

答えは「YES」。僕たちは投資を実行した。

しかし、人間はそう簡単に変われないのと同じように、会社もそう簡単には変われない。会社を経営するのは人間なので。

彼らは極めて技術力が高く、素晴らしいプロダクトを開発していたが、細部に対する拘りが強く、Duffusionというと語弊があるかもしれないが、スケールさせるために「機能と価格」を押さえた廉価普及版を開発し、量を狙っていくことは、ネイチャー(性質)やDNAとして、抵抗感があったのだろう。

頭では理解していても、心が付いてこないというか、経営者として事業をスケールさせる(ビジネスを成功させる)ことには、モチベーションを持てなかったように思う。

結局、お互いによく話し合った結果、僕らは投資した時に半分のバリューで、彼らの株を彼らの関係者に譲渡した。考えられる選択肢の中では、ベストな結果だったと思う。久しぶりに彼らのウェブサイトを見たが、活況が見て取れた。元気に楽しくやっているようだ。

ところで、日本では「小粒上場」に関する問題提起がされて久しいが、それがネットバブル以降、日本のスタートアップエコシステムを成長させることに寄与してきたことは否めない。

各国やエリア毎にカルチャーやエコシステムが異なるわけで、シリコンバレーを真似しても上手くいくことはない。ネットバブルから四半世紀が経ち、2022年には「1兆円」近い資金が日本のスタートアップに投資されるまでになった。

今後の日本のスタートアップエコシステムの成長に必要不可欠なのは、いかにして「Globalized & Diversified(グローバル化と多様性)」を実現していくかである。

自分なりに出来ることをして行きたい。

謹賀新年!Happy New Year 2024!

明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い申し上げます。

ここ10年は毎年元旦は実家に帰省し、裏磐梯のグランデコスノーリゾートでスキーをするのが恒例になっていたが、今年は子どもたちの「ダブル受験」があり、東京の自宅で過ごしている。

Facebookへの初投稿もゲレンデの写真を載せることができず、ChatGPT4 (DALLE-E) にpromptを出し、イラストを描いてもらった。英語でprompt を書いたせいか? 僕だけ西洋人っぽい顔になっているw。

他のイラストでもそうなのだが、どうもChatGPTは「算数」が苦手らしい。僕は「二人の子供たち」とスキーに行った絵とリクエストしたのだが、僕以外に「3人」の子供たちが描かれている。実は、最初に頼んだイラストは、リクエスト通り、僕と2人の子供たちが描かれていたのだが、2024 という数字を入れることを伝えるのを忘れており、もう一度、イラストを描いてもらったところ、子供が3人になっていた・・・。

でも、彼らの従兄弟(大学2年生)も一緒に行ったと思えば、悪くない。イラスト自体は、3人バージョンの方がイイ感じなので。

ところで、今年の抱負を書く前に、2023年を振り返っておくことにする。

With the three founders. Guy at left, Erez at my right side, Osnat at right at the old office in 2017.

僕にとって2023年は、兎にも角にも「The year of Infarm」だった。

2023年1月12日 (木)、日本時間18:00、Infarm 創業者の一人、CEOのErez との臨時のMTGがあった。

その翌週の火曜日に、彼との月イチの定例MTGが予定されていたにも関わらず、彼の秘書からメールがあり、1/12 (木) にMTGがセットされた。あと数日待てば話ができるにも関わらず、急遽、MTGがセットされたということは、つまり、悪いニュースだろうことは容易に想像がついた。

Zoom 越しに彼の顔が映し出され、新年の挨拶をした後、僕は「It must be bad news, right?(きっと悪い知らせなんだよね?)」と訊いたところ、「Yes. Unfortunately, the board decided to shutdown the Japan operation.(そうだ。取締役会が日本市場からの撤退を意思決定した。)」という返事だった。

When should we close our business?(いつまでに閉めればいい?)」と訊くと、「Yesterday.(昨日までに)」という単語が返って来た・・・。

その後のことはブログにも書いたので、ここで改めて書くことはしないが、Infarmに投資し、日本法人を設立、そして、約3年に渡って経営してきたことは、僕にとっては得難い経験になった。

野菜を生産しているとはいえ、収益構造的には「完全な製造業」であり、多額の「設備投資」が求められる事業で、累計「US$604.5 million(USD/¥142で計算すると約860億円!)」を資金調達をするような事業は初めてだった。もちろん、すべての資金調達は本国側で行っており、日本法人としてファイナンスしたわけではないが、そのダイナミズムは株主としても、日本法人の経営者としてもヒシヒシと感じていた。

Infarm はベルリン発祥で、日本を含めて「11ヵ国」で事業をしており、一時期、1,200人ほどの従業員がいた。ドイツ企業にも関わらず、ドイツ人比率は、おそらく2割程度しかいなかっただろうし、英語がネイティブなスタッフも同じく2割程度だったと思う。そして、国籍はなんと「50ヵ国」以上あった。当然、社内公用語は「英語」だった。

また、日本法人の経営者だった僕は、約20人ぐらいが参加する、四半期に1度の幹部会議に呼ばれていたが、彼らの国籍も10ヵ国ぐらいで構成されていた。

そのような「多様性と国際性」に富むスタートアップの経営陣の一角としての経験を踏まえると、日本のスタートアップは「モノクローム」に見える。創業者は全員、日本人、従業員もほぼ全員、日本人。株主も日本のVCや日本企業、顧客も日本企業 and/or 日本人という構造では、グローバルな事業を創るのは極めて困難だろう。

今のところ、世界第3位のGDP(市場)があるが故に、ガラパゴス化して成長していけるが、出生率や移民政策が大きく変わらない限り、わざわざブログに書くまでもなく、確実に市場は縮小していく。

ところで、昨年12月21日(木)、僕が株主の一人でもある「Musashino Valley」というStartup Studio 兼 Co-working spaceで、サンブリッジ時代から行ってきた「シリコンバレーツアー」の「拡大同窓会」なるイベントを行った。

新卒でアップルジャパンに就職し、10数年を経て「チカク」というスタートアップ(アップルでの経験を活かし、IoT端末を開発!)の創業者のカジケン(梶原健司さん)と、FinT というスタートアップの創業者で、ツアー参加当時は大学1年生だった大槻祐依さん、そして、Musashino Valley の運営企業の創業者で武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学部長の伊藤羊一さんを交えて、我々日本人にとってのシリコンバレーという存在の意味や影響力、そして、事業を立ち上げて成功させるために必要なことに関して、ざっくばらんにパネルトークを行った。

僕が最も印象に残っているのは、カジケンが説明してくれたアップルの「TOP100」と呼ばれていた(そう言っていたと思う)経営幹部を対象とした会議のことだ。

その会議に招集される経営幹部は、Steve Jobs がファーストネームを憶えている「100人」で、パソコンもiPhoneも取り上げられて、3日間、缶詰になり、会社(事業)の将来を議論していたという。

そこで、その100人は、Steve Jobs から、自分にとって「重要な10個のテーマ」を書き出すように言われ、それを発表した後、その内の「7個」は「捨てろ!」と指示されたという。

「選択と集中」。言うのは簡単だが、人間は「可能性があるものを捨てる」ことに躊躇するし、それには「勇気」が必要だ。ドラッカーのいう「劣後順位」というやつだ。

昨年、特に後半3ヶ月の僕は「欲張りすぎていた」と思う。次のビジネスやステージに進まなければいけないのは重々理解していながら、Infam日本法人の清算業務が終わっていなかったり、自分の年齢(昨年3月で還暦になった!)のことが気になったり、ある意味、ありがたい話だが、欧州のFoodTech系スタートアップから日本市場参入に関する相談があったり、投資先の資金調達を手伝ったりと、何だかんだと慌しくしており、焦っていたのだろう。

そんな時、カジケンの話は「胸に突き刺さった」。あのパネルトークはマジで勉強になった。

それからもうひとつ。昨日の紅白で久しぶりに「ルビーの指環 (音が出ます!)」を熱唱した「寺尾聰」は、なんと76歳!という事実を知り(今朝、とある知り合いのFB投稿で知った)、勇気をもらった。僕もあんな76歳になりたい!と思った。

そして、60代は、まだまだフルスロットルで行ける気がして来た!!

「獺祭(だっさい)」で知られる旭酒造(山口県岩国市)の桜井博志会長は、70代で米国に拠点を移し、さらなる挑戦をされるそうだし!

2024年は、予てから温めていた日本のスタートアップエコシステムに「多様性と国際性」をもたらすことを目的とした、あることを立ち上げようと思っている。

近いうちに、このブログで詳細を説明したい!

「令和の減税」と「昭和の主婦像」。

僕がブログを書いたところで、日本の政治や社会が変わるとは思わないが、何もせず、沈みゆく船を眺めている(乗っている)のは自分の価値観にそぐわないので、思うところを文章にすることにした。

以下は僕が最近読んだニュースやコラムだ。読んだ順番に掲載する。

日本のGDPが世界4位に転落へ…さらに落ちぶれる前に「主婦年金」「配偶者控除」を廃止すべき理由(by 鈴木貴博氏

もう何十年も前からふざけた制度だと思っていたが、彼のコラムを読み、よりいっそう腹立たしくなった。そのような時代遅れな昭和の主婦像」というか「夫婦の関係」というか「家庭観」を放置したまま何もしようとしない政治家に対して。

日本の一人当たりGDPは「約34,000ドル」で、経済力で見ると「第3集団」になる。この集団の特徴は「かつては世界のトップだった国が斜陽化したものと、韓国、台湾のように経済が発展して追いついてきた国や地域(by 鈴木貴博氏)」だ。

今年の春先、シンガポールに住む日本人起業家の友人が来日した際、久しぶりに会い、ランチをしながら色々な話をした。彼は「日本のイタリア化」という表現を使い、外から見た日本の印象を説明してくれた。イタリア関係者には大変失礼かもしれないが、イタリア同様、大多数の外国人にとって、日本は「観光目的」で訪れる国であって、ビジネスをしに来る国ではないという意味だ。言い得て妙である。

社会人で尚且つ結婚している人なら「配偶者控除」という制度の説明は不要だろうが、パートタイムで働いている人が「年間106万円」を超える収入を得ると、社会保険料が「16万円」かかるようになり、年収が「90万円」になってしまう。鈴木氏が解説しているとおり、仮に時給1,000円だった場合、160時間分の時給がパーになる。さらに、年収130万円を超えると「扶養家族」から除外され、所得税が増えることになる。

なので、パートタイムで働く多くの既婚女性は、106万円と130万円を気にして働くことになる政府は、パートタイムで働く既婚女性に「あまり収入を得るな」と言っているに等しい。

GDPは「一人あたりの生産性 x 人口」であり、何故、政府はそのような働く意欲を阻害する制度を撤廃しようとしないのか? こうしてブログを書きながら、改めて腹が立って来た。

鈴木氏のコラムによると「イギリスでは配偶者と世帯主を合算にして税申告させるのは男女差別だとして、90年代にはすでに、それぞれがそれぞれの申告をする制度に変更されています」ということだ。

確かに、106万円のパートタイム収入が「90万円」に減ってしまったら、一時的には「不平不満」が噴出するだろう。かといって、この時代遅れな制度を放置しておくのなら、間違いなく、日本はさらに落ちぶれていくことは必至だ

詳細は鈴木氏のコラムを読んでいただければと思うが、時給1,000円で月間300時間も働くわけにはいかない。となると、能力と意欲があり、子育て等、家庭の事情が許す方であれば、自ずと、フルタイムの仕事を求めるようになるはずだ

そのためには、夫が今までよりも家事を負担する必要が出てくるし、管理職に占める女性比率が向上するだろう。そういう僕は、妻からは、まだまだ家事負担が足りないと言われているが・・・。

労働政策・研究機構によると、管理職に占める女性比率は、アメリカ:41.1%イギリス:36.6%フランス:35.5%ドイツ:28.1%スウェーデン:42.3%シンガポール:37.2%フィリピン:53.0%となっている。対して、日本は「13.3%」だ。

要するに自民党は、昭和の価値観から脱却する意志が無いのだろう。そして、多くの国民もそれを支持しているのかもしれない・・・。なんとも哀しい現実だ。

「平和は尊い。だが、もっと尊いのは…」サッチャーと日本の“政治屋”の決定的な違い。

故マーガレット・サッチャーは僕が大学生や社会人になりたての頃、イギリスの首相だった。来日されたこともあり、「鉄の女」という称号も含めて憶えているが、彼女の政治思想や信念についてはよく知らなかった。

国際ジャーナリストの「落合信彦氏」のサッチャー元イギリス首相に関するコラムを読み、改めて思ったことは、政治家に必要なことは、不都合な真実を語り、不人気な政策であっても、それが自国の将来にとって必要不可欠なことであれば、断行する勇気と姿勢が必要ということだ。政治家に限らず、組織のリーダーにも同様なことが求められる。

日本の政治家はどうか? 政府債務が「1,000兆円」を超える中、たまたま予定よりも税収が増えたからと言って、国民に4万円だか、7万円だかを還元するというのは、理解に苦しむ。ポピュリズムと言われても仕方ないし、ましてや、日経新聞の世論調査では「65%」の人が「適切ではない」と回答している。そして、支持率は政権発足後、最低の「33%」となった

サッチャーに話を戻すと、彼女は首相在任中、フォークランド紛争への派兵の決断、また、1970年、ヒース内閣で教育大臣に就任した際には、膨らむ一方の公的支出の削減のため、学校における「牛乳の無償配給の廃止」を決定し、「ミルク泥棒」と避難され、抗議の嵐を巻き起こしたそうだ

翻って日本はどうだろうか。与野党問わず政治屋たちは、選挙のたびにバラマキ政策を掲げ、その一方で増税の「延期」「凍結」を訴えて借金を雪だるま式に膨らませている。彼らの頭の中には、この国の未来を担う将来世代のことなど微塵もないのだろう。あるのは自身がいかに当選するかだけだ

 サッチャーは先のインタビューで若者たちに向けたメッセージとして、次のように発言している。彼女の人生哲学、政治哲学が凝縮された言葉なのでここで紹介したい。

「将来のためを思えば、時にはきついこと、不人気なこともせねばなりません。ここに信念の大切さがあります。甘いウソよりも苦い真実に直面できる勇気を持つこと、そしてそれを人々にぶつけられる信念と情熱を持つことです」。(落合信彦氏のコラムより)

最後に「日本経済新聞(2023年11月3日)」の一面に掲載されていた記事を紹介したい(有料会員限定の記事)。

これが未来向いた対策か」論説委員長 藤井彰夫

日本の名目GDPがドイツに抜かれ世界4位に転落するという国際機関の見通しが話題になったが、その理由は円安だけでなく中長期の日本の成長力低下だ成長力底上げに必要なのは一時的な需要追加ではない

潜在成長率上げにつながる規制改革や、将来不安を除く社会保障・財政構造改革も重要となる。目先の選挙ではなく未来世代と向き合う政策を求めたい(記事より抜粋)。

どうしたら変えられるのだろう? 諦めたくはない。

インスタカートのIPOは失敗か?

さすがに60年も生きていれば、自分に何ができて、何ができないか? は分かるようになる。否応にも・・・。

僕が尊敬するPeter F. Drucker はこういった。「50歳になり人生を振り返った時、何と憶えられたいか(どんな人だと認識されたいか)? その質問に答えられなかった場合、その人生は失敗だったということになる」

日本のスタートアップエコシステムは、グローバルのそれから良くも悪くも「Decoupling」されており、2023年上半期のスタートアップ投資額は昨年から減少しているものの、シリコンバレーと較べると遥かに良い状況のようだ。

グローバルでは相変わらず、厳しい状況が続いている。

Gene Teare at crunchbase のレポートによると2023年Q3のスタートアップへの投資額は「US$73B(約11兆円)」と、Q2より少し増えたが、前年同期(US$86B)から約15%ダウンとなっている。

細かく見てみると、レイターステージでは、半導体、AI、電気自動車、サステナビリティなどのスタートアップが大規模な資金調達を行ったため、前年同期比で10%近く、前四半期比で30%増加している。一方シードおよびアーリーステージでは、前年同期比で「減少」を続け、VC投資がまだ回復していないことを明確に示している。

また、注目すべきは、レイターステージの大型資金調達は、主に北米「以外」で見られていることだ。

アジアでは、半導体、電気自動車、再生可能エネルギー技術大型ラウンドにより、レイターステージ資金調達額前年比50%増と大きく伸びた。

欧州では、レイターステージ資金調達前四半期比倍増し、エネルギーと製造業の大型資金調達案件で前年同期比20%増となった。

さて、僕のブログを読んでくれる人の殆どは、標題のカタカナの説明は必要ないだろう。でも、そのIPOは失敗か? と僕が投げ掛けた質問の意図の解釈は人によって異なるだろう。

最初に僕の考えを書いておくと、僕には成功とも失敗とも評価できない。

但し、我々に、スタートアップとは何か? 投資とは何か? そして、イノベーションとは何か? を考えさせるIPOだと思う。

今日のブログは、Kyle Harrison という人が書いたブログをもとに書いている。かなりの長編だが、興味があったら是非、読んでみて欲しい。

※Source: Twitter (X) of Aswath Damodaran, an Economics Professor at NYU.

上表は、ファイナンスが専門のNYU教授、Aswath Damodaran氏のTwitter (X)に投稿されていたものだ。

Instacart(インスタカート)は2023年9月19日、US$9.9Bの評価額でナスダックに上場した。1ドル150円で計算すると1兆4,850億円になる。悪くない時価総額だ。但し、2021年に資金調達した際の評価額は「US$39B」。同じく150円/US$で計算すると、5兆8,500億円で評価されていたことになる

つまり、75%ディスカウントして、IPOしたということだ。

尚且つ、IPO時の売出し価格30ドルに対して、株価は42ドルまで上昇したものの、その後、株価は下がり続け、現在は25-26ドルで取引されている。時価総額は「US$7B (1兆500億円)」で、IPO時を割り込んでいる

Funding Storyを見てみよう。米国のベンチャーキャピタル(VC)は、S&P500の投資利回りよりも高いパフォーマンスを期待するし、VCに投資するLPも同様だろう。ということは、シリーズC以降の投資は「失敗」だったということになる。

何故なら、S&P500に投資していたら「12.31%」の利回りだったのに対して、IPO時の株価で計算すると、シリーズCの投資利回りは「10.6% (複利)」に留まっている。

それ以降の投資パフォーマンスは下がり続け、2020年のTender Offer Round の投資パフォーマンスは、マイナス13.65%(損失)だ。未公開時の最終ラウンド(シリーズI)に関しては、マイナス51.17%。つまり、投資金額の半分以下になってしまっている。

一方、シードおよびシリーズAで投資したVCは、それぞれ、55.02%、61.96%のリターンを上げている。

ここで注目して欲しいのは、セコイア(Sequoia)は、シリーズA、D、Iと、計3回のラウンドで投資している点だ。結果論だが、セコイアの計US$300M(約450億円)の投資は、US$1.4B(約2兆1,000億円)になっており、約5倍になっている。但し、そのリターンの85%は、シリーズAの投資から得ている

もうひとつ、考えるべきことは、セコイアのリターンをもたらしたのは誰か? ということだ。

僕がVCから資金調達してスタートアップを経営していたのは2000年代前半であり、また、サンブリッジグローバルベンチャーズでスタートアップへの投資の仕事をしていたのは2010 年代半ばまでだ。その後は、日本のスタートアップエコシステムからは距離が生じている。

従って、日本のVC業界の現状を正確には理解していないが、シリコンバレーと日本では、VCの投資方針や業界構造、インセンティブが異なるように思う。

インスタカートのセコイアの事例のように、シリーズAで投資をし、その後、最後のラウンドまで付き合うケースも散見されるようだが、シリコンバレーでは、シード、アーリー、ミドル、レイターと、各ステージ毎に、メインとなるVCの顔ぶれが異なっている。セコイア、Andreessen Horowitz等のようなメガVCは、各ステージ毎にファンドを組成するが、Floodgate, First Round 等はシード&アーリーステージに特化している

では、それがどのようなメカニズムを生み出しているのか?

インスタカートの「フリーキャッシュフロー(現金収支)」が「ポジティブ」になったのは、2022年らしい。そして、今日に至るまでに「US$1.8B(約2,700億円)」を必要(燃焼)としている

言い方を変えるなら、セコイヤとAndreessen Horowitzのリターンは、US$1.7Bの儲からなかった投資家によってもたらされているということだ。

If a psycho with a commercial real estate business can raise $20B, then anyone can raise anything! But the sudden constraint on capital made VCs realize just how dependent they are on downstream capital.

上記の英文で、Kyle Harrison は、現状を皮肉交じりに指摘している。

要するに、WeWorkのような「ただの不動産ビジネス」が「US$20B(約3.5兆円)」も調達できるなら、誰もがいくらでも調達できる!と思うだろうということだ。そして、突然、世の中が正気を取り戻し、VC(に限らない)は、自分たちの投資は、その後の投資の判断に委ねられている(それ次第)ということに気付かされた

もうひとつ、インスタカートを例に取るなら、シリーズC以降の投資家がいなければ、セコイアやa16z (Andreessen Horowitz)はリターンを出せなかっただけでなく、世の中は変わらなかったということだ

さらに言えば、UberLyft といったインフラも、投資家の損失の上に成り立っている。今や、ベイエリアに出張した際に、UberやLyft無しの移動は考えられない。そのUberやLyftも「ロボタクシー(無人タクシー)」の出現によって、大きな影響を受けるだろう。

ドラッカーは、新しい産業が生まれた場合、個別には黒字化する事例もあるだろうが、その産業全体としてみると「15年は黒字化しない」と言っている。イノベーションは「長期」で見る必要があるということだ。

Infarm に限らず、Vertical Farming(LED/水耕栽培)業界を経験して、身を以て実感した。

そして、「教育」こそ、長期での判断が求められる。成果が出るのは、どんなに早くても10年後、現実的には20年という時間を要するだろう。「現世利益」を求める人には手掛けられない事業である。

アジアの経済革命が世界にもたらすもの。

武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(通称:武蔵野EMC =Entrepreneurship Musashino Campus)の創設に参加し、教授という仕事を仰せつかっていることで、The Economist 等、海外の主要メディアを購読する際、アカデミック料金で読めるというメリットがある。

何かと多忙にしており、当初の意気込みほどには読むことができずにいるが、それでも、日本のメディアでは取り上げないような貴重な情報を得ることができる。

当然だが、日本のメディアが取り上げるのは、日本語訳という投資に見合うPage View (PV) が稼げる、日本人が興味を持つと思われる記事に限定される。つまりは、多くの日本人にとっては興味の対象ではないが、その知識や事実を知るか、知らずにいるかでは大きな違いがあるような情報は提供してくれない、ということだ。

今では、DeepL等の優れもののお陰で、英語の記事やレポートを読むことのハードルが大きく下がったが、翻訳された内容を見て、これはオカシイぞ?と思うことも少なくない。なので、日本語訳した場合でも必ず、原文を読むようにしている。それでも、最初から原文を読むのと比較したら、圧倒的に時間を節約できる。

※Image source: McKinsey. Asia’s future is now. July 14th, 2019 Discussion Paper

さて、前置きが長くなったが、The Economist What Asia’s economic revolution means for the world. および、McKinsey Asia’s future is now. July 14th, 2019. Disuccion Paper そして、NYU教授のScott Galloway 氏のブログを読んで得た感想を書くことにする。

過去半世紀は日本、韓国、台湾、そして、最近は中国が、その恩恵に預かってきたわけだが、工業製品を安く生産し、裕福な欧米諸国に輸出することで貧困を脱出し、裕福になってきたのは今さら論じるまでもない。それが今、アジア地域の経済モデルは大きく変化し、アジア域内と世界に大きな影響を与えようとしている。

「1990年には、アジア貿易の46%が域内で行われていたが、2021年には、この数字は58%に上昇し、ヨーロッパに次いで最も統合された地域となった。アジアが豊かになり、企業が筋肉質(高収益)になるにつれて、投資の流れも、より「地域的」になっている

例えば、日本や韓国等による他のアジア諸国への海外直接投資は、2010年の48%から、2021年には、59%に上昇した(但し、シンガポールや香港への投資を除く)。

具体的な金額を見ると、2015年から2021年にかけて、中国はこの地域に年間平均55億ドル(今の為替レートで計算すると約8,250億円)の資金を提供している。対して、日本は40億ドル(同約6,000億円)、韓国は29億ドル(同約4,300億円)である。一方、欧米のシェアは低下した。

より重要なことは、地域内の貿易の中身が変わるということだ。現在のアジア域内貿易の多くは、最終製品を造るための「中間財」だが、アジア諸国の経済力が向上し、消費者の可処分所得が上がるに連れ、近隣諸国からより多くの「最終製品」を購入するようになるだろう。」The Economist の記事を要約

これは、マッキンゼーのレポートでも論じられている。

2000年当時、アジアは世界のGDP(購買力平価ベース)の3分の1弱を占めていたが、2040年には50%を超えようとしており、その時点までに、世界の総消費量の40%を占めるようになると予想されている。アジアは経済的な進歩だけでなく、寿命の延長や識字率の向上、インターネットの飛躍的な普及など、人間開発においても急速な進歩を遂げている(McKinsey, Asia’s future is now. July 14th, 2019. Discussion Paperより和訳)」。

これは「世界の重心」がアジアにシフトすることを意味しており、インドの台頭、BRICS+ another 6 countries等がその変化を表している。

The Economist が論じている「近隣諸国からより多くの「最終製品」を購入するようになるだろう」とう予測は、マッキンゼーのレポートでも解説されている。

As consumption rises, more of what gets made in these countries is now sold locally instead of being exported to the West. Over the decade from 2007 to 2017, China almost tripled its production of labor-intensive goods, from $3.1 trillion to $8.8 trillion. At the same time, the share of gross output China exports has dramatically decreased, from 15.5 percent to 8.3 percent. India has similarly been exporting a smaller share of its output over time. This implies that more goods are being consumed domestically rather than exported. Furthermore, as the region’s emerging economies develop new industrial capabilities and begin making more sophisticated products, they are becoming less reliant on foreign imports of both intermediate inputs and final goods. (McKinsey, Asia’s future is now. July 14th, 2019. Discussion Paper より抜粋)

アジア諸国での消費の増加に伴い、域内で生産されるものの多くは、欧米に輸出される代わりに、現地で販売されるようになった。2007年から2017年までの10年間で、中国は労働集約型商品の生産を3.1兆ドルから8.8兆ドルへとほぼ「3倍」に増やした。同時に、中国が輸出する総生産の割合は15.5%から「8.3%へと劇的に減少」した。インドも同様な傾向にある。つまり、より多くの「消費財」が輸出されるよりも「国内で消費されている」ことを意味している。さらに、アジアの新興国が新たな産業能力を発展させ、より洗練された製品を作り始めるにつれて、中間投入財も最終財も海外からの輸入に依存しなくなりつつある上記英文の和訳)。

アジアは既に「世界の工場」は卒業し、世界の「主要市場」へとその位置づけを変化させているということだ。

上記に関連することで、なるほど・・・と思うことがあった。

シリコンバレーに住む僕の知り合い(日本人ではない)が、彼の友人で、Tesla の中国現地法人の販売責任者と話した際、その方が「中国人はラグジュアリーな内装を好む。なので、スポーティなテスラを売るのに苦労している」と言っていたそうだ。

要するに、BYDの方が売れているということだ。産業財なら「性能と価格」が論点だが、消費財になると、その国や地域の「カルチャー」に合致したものである必要がある。いかにテスラであっても、中国人の好みに合わなければ売れない。

となると、今までは、高級ブランド(アパレル関連)は、LVMH、シャネル、カルティエ、クルマであれば、ドイツがメルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、フォルクスワーゲン、携帯端末であればアップルが iPhone日本は、SONY, ホンダ, トヨタ, Panasonic のように、世界のどこででも売れるような商品を開発し、販売してきたが、消費財、特に「工業製品」に関しては「世界ブランド」の市場も変わっていく可能性がある。

一方、アジアにおける政治的な統合はあり得ないだろう。ヨーロッパは2度の世界大戦を経て、そのような悲惨な歴史が繰り返されないようにという力学が働いたが、アジアにおいては、中国、インド、日本という、価値観も文化も経済システムも何もかも異なる大国が、ひとつの政治思想のもとに統合することは考えられない。

では、第二次世界大戦以降、アジア諸国に大きな影響力を持ってきた「アメリカ」はどうなるのか?

NYU教授のScotto Galloway 氏のブログに、シニカルだが、おもしろいファクトが書いてあった。

Galloway 氏らは80年代、「日本が40年前に軍事的にできなかったことを経済的にやっていると判断した」そうだ。

1980年代、コンピューターと自動車は未来のものであり、当時の日本は、それらをより速く、より良く、より安く作っていた。そして、日米貿易摩擦が起き、デトロイトの街では、日本車が叩き壊されている映像を見たのを憶えている。

そして、アメリカの識者たちは、日本のGDPがアメリカのそれの40%まで迫った時、それが100%になるのではないか?と恐れていたらしい。でも、それは、残念ながら起きなかった。

ところで、9/4のNew York Times のオピニオン欄に、America Is an Empire in Decline. That Doesn’t Mean It Has to Fall. (アメリカは衰退する帝国。だからといって滅びる必要はない)という、なんともセンセーショナルな見出しの記事が掲載されている。

Galloway 氏は「このような見出しはクリックの餌であり、私たちはまだ餌に食いつく: アメリカ人の4分の3が、わが国は構造的に衰退していると考えており、この夏の歌はわが国の終焉への賛歌なのだ。」と、自身のブログでコメントしている。

これはアメリカ社会に限らず、日本でも同様だ。ポジティブな見出しでは「Page View」は稼げない

悲観的なニュースの方がPVや視聴率を稼げるのは、アメリカ人に限らない。人間は、常に未来を心配しており、自分だけは「その悲惨な未来」から脱出したい!と思っており、どんな悲惨な未来が待っているのか?を「事前」に知りたくなるのだろう。と僕は思っている。

では、アメリカは本当に滅亡の道を歩んでいるのか?

ゴミ箱に捨ててしまって探せなかったが、あるメディアからのメールに「基軸通貨としてのドルの信頼が揺らいでいるのか?」というような見出しの記事があった。

当のアメリカでも「海外の中央銀行がドルへの関心を失っている」という主張があるらしい。では、事実はどうなのか?

世界の通貨準備高に占めるドルの割合が、過去20年間で70%から60%に低下したというものだ。これは重要なことのように聞こえるかもしれないが、その範囲は滑稽なほど小さい。拡大してみると、80年代には50%、30年前には40%だった。過去75年間におけるドルの基軸通貨としての地位を正確に表現するなら、それは……揺るぎない優位性である。20% (Euro) という数字では、次善の選択肢には遠く及ばない」。by Galloway 氏

それ以外に、圧倒的な軍事力スタートアップへの投資額インフレ率を見ても、少なくとも当面は、アメリカの優位性は揺るがないだろう。

但し、冒頭で説明したとおり、アジア地域の勃興により、世界の重心が変化していくのは間違いない。

アメリカが世界の警察官の役割を降りなかったら、ロシアはウクライナを侵攻しなかっただろうか?

規模では勝負しようがない日本が国際社会の中でリーダーシップを発揮し、若者に充分な教育投資ができ、未来に希望を持てる国でいる(なる?)には、どうすればいいか?

わざわざブログに書くまでもなく、甚だ微力ながら、僕なりに考えて、少しでも実行に移したい。

※イメージ写真は、McKinsey, Asia’s future is now. のカバーページ。

還暦少年とMidjourney.

子供の頃、母親とスーパーに行くと、偶然に出くわした彼女の知り合いとの会話で30分は待たされた。でも、当時の僕には長く感じられただけで、実際には5-10分くらいだったかもしれない。近所のスーパーに買物に行った時、二組の家族連れがいて、お母さん同士が楽しそうに会話をしている光景が目に留まり、産みの母のことを思い出した。

会社を解散するのは思ったよりも大変だった。過去形で書いたが、実はまだ終わっていない。今年4月30日付けで、Infarm 日本法人の解散登記をし、法的概念として、会社は解散されている。つまり、Infarmとして、日本で事業を行う主体は存在していない。但し、財務的に整理をするための「清算」という手続きを行う必要があり、まだその手続きが続いている。でも、その手続きの殆どは弁護士と税理士の方々が中心となって進めてくれており、HQ側とのやり取りは必要だが、僕が清算手続きの実務を行っているわけではない。

そんなことで、ここ数ヶ月、時間の自由ができたので、The Economist、Wall Street を購読し、Crunchbase等を含めて、可能な限り、海外のメディアを読むようにしている。下図はの今朝 (2023年8月27日 10:15 am JST現在)の時点で、The Economist 購読者に最も読まれた記事TOP5。

それで感じるのは、それらのメディアには、日本のことは殆ど登場しない、ということだ。ここ最近のエコノミストの主な記事は、ウクライナ情勢、プーチン、プリコジン、中国、習近平、アメリカ大統領選、米国経済、地球温暖化等である。今日のニュースレターに珍しく日本の記事があったが、性風俗産業に関する新しい規制に関するものだ。政治でも経済の話でもない。

仕事柄、シリコンバレーに関する記事を意識的に読んでいるが、スタートアップへの投資に急ブレーキが掛かる一方、AIに関しては、バブルの様相を呈していると言っても過言ではない。

但し、AIはスタートアップが取り組める対象ではない。ChatGPTを運営するOpen AI はマイクロソフトから1兆円以上もの投資を受け、対抗馬のひとつ、ディープマインドの共同創設者ムスタファ・スレイマン氏らが2022年に設立した「Inflectin AI」には、Rein Hoffman も出資者に名前を連ね、$1.3B(現在の為替レートで約1,900億円)を調達している。Computing Powerに莫大な費用を必要とし、スタートアップが数億円の資金で始められるビジネスではない。

一方、together.ai というスタートアップが、オープンソースのAI 構築をサポートするプラットフォームとCould サービスをリリースした。

特定のバーティカルに特化したAIサービスの開発が促進され、SaaSならぬ「AI as a Service =AaaS」の時代が来るように思う。

ところで先日、INITIALの「2023上半期 Japan Startup Finance」をもとにしたウェビナーを拝聴した。詳しくは、同社のレポート(無料)をダウンロードしていただきたいが、印象に残ったのは以下の3点。

(ソース:INITAIL)

1つ目は、シリコンバレーに遅れること約1年、日本でも特にレイターステージにおいて、スタートアップへの投資が急減速したこと。2022年上半期は「4,160億円」がスタートアップに投資されていたが、2023年上半期は「3,314億円(前年同期比:約80%)」に減少

2つ目は、資金調達額上位からも評価額ランキングからも、SaaS スタートアップの存在感が薄れてきたこと。

3つ目は、2つ目とセットで語る必要があるが、DeepTech スタートアップが増えてきていること。

要約すれは、ビットバレーから約25年に渡り続いてきた「インターネット」スタートアップ(日本語でいうネットベンチャー)による時代は終わりを迎えているということだ。

スタートアップ=DeepTechスタートアップの時代になるだろう。つまりは、起業家だけでなく、VCをはじめとした投資家を含めて、スタートアップエコシステムを構成する要素が大きく変わっていくだろう。

尚、INITIALのリサーチ対象は「日本のスタートアップの資金調達」であり、そのことには触れていないが、この先、日本のスタートアップおよびスタートアップエコシステムが成長していくには、東証の新興市場(旧マザーズ)に上場することを主要なエグジット(言葉は出口だが、実際はそこからがスタート)とするだけでは、確実に限界が来るだろう。

今のところ、世界第3位のGDP(マーケット)があり、スタートアップというステージであれば充分な成長が可能である。但し、2060年には、日本のGDPは「中国の1/10」になる。いつまでも「国内市場」だけを対象としているなら、スタートアップを語る以前に、日本の存在意義は増々薄れていくのは間違いない。安全保障にも支障を来すはずだ。

最近はそのようなことを口にする人も少なくなってきたが、戦後80年近く経つにも関わらず、未だに実現できていない「Next SONY, Honda」を生み出すにはどうすれば良いか? という「終わっていない宿題」に正面から取り組む必要がある。

僕なりの考えがあるが、またの機会に披瀝するとしよう。

さて、明日(8/27)から、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(通称:武蔵野EMC=Entrepreneurship Musashino Campus)の2年生約30人を連れて、シリコンバレーに行く。主に、僕の投資先のファウンダーや知り合いの起業家、ベンチャーキャピタリストに話をしてもらう予定だ。下の写真は昨年、武蔵野大学EMCとして実施した記念すべき第一回目の模様(投資先のMilesの新オフィスにて)。

僕の記憶が正しければ、サンブリッジ時代から数えて、今年は記念すべき「10回目」のシリコンバレーツアーである

ところで、今回のアイキャッチ画像は、僕がprompt を出し、Midjourney に描いてもらったものだ。生物学的にはだいぶ年を取ってしまったが、気持ちは、EMCの学生(20-21歳)に負けないつもりだ。

おっと、大事なことを忘れるところだった。何年ぶりかでドリームビジョンのウェブサイトをリニューアルした。そして、ブログサイトの「タイトル」と「ドメイン」を新しくした

今後の展開に乞うご期待!

何に資金を投下するべきか?

紀ノ国屋、サミット、コクヨの各店舗からファーミングユニットを撤去してから、そろそろ3ヶ月。Infarm 日本法人を解散し、代表取締役社長を退任してから今月末で1ヶ月になる。法的には「弁済禁止期間中」という期間にあり、まだ「清算会社」としての存在は残っている。

とは言え、実務的には終了しており、次の展開について、毎日、あれこれ思考を巡らせている。

以前に書いたブログでも紹介したが、Precursor Ventures の創業者 Charles Hudson のNews Letter は、これからの人生でやりたいことを考える上で、示唆に富んでいる。

Charles は、Pre-Seed ステージを資金調達額「$1M(¥130/$=1.3億円)」以下と定義しており、Seedステージ、つまり、over $1Mのファイナンスができた投資先と出来なかった投資先では、1ヶ月の「バーンレート(資金燃焼額)」がどう異なるか?を分析している。以下はそのグラフである。

2017年から2022年を比較し、その年にSeedファイナンスをしたスタートアップと、できなかったしたスタートアップを比較したところ、Seedファイナンスが出来た投資先の方が、1ヶ月のバーンレートが高かった。つまり、より資金を使っていたということだ。

ここで注意したいのは、資金をより多く使えば、Seed ファイナンスにたどり着けるという単純な話ではない、ということだ。

データが示していることは、彼が日頃の観察から得ていた感触と合致しているそうだが、Seed ファイナンスに成功した投資先は、Product-Market-Fit(PMF)に至ることができており、自信を持って顧客獲得のための先行投資(先行投資)ができているのだろうと分析している。結果として、Seedファイナンスができなかった投資先よりもバーンレートが増えているということだ。

Pre-Seed スタートアップ創業者の仕事は、投資から調達した資金を使って、PMFを実現するための「Insight(示唆)」を獲得することだ (by Charles)。

当たり前だが、いくら使ったか?ではなく、「何にお金を使ったか?」が重要ということだ。

彼のニュースレターを読んで僕が学んだことは、シード&アーリーステージという、極めて属人的な判断や嗅覚が求められる領域においても「分析(データ化)」と「科学的アプローチ」が必要ということだ。

DreamVision portfolio performance as of 2019

少々振るいデータ(2019年現在)だが、サンブリッジ時代に組成し、ドリームビジョンで引き継いで運営している2つの投資ビークルとドリームビジョンからの直接投資の計28社に関しては、「約8割」が次の資金調達を実現できている。また、生存確率は93%と、自画自賛だが投資パフォーマンスはかなり良い。

問題は、次のラウンドに行けなかった6社は、次のラウンドに進めたスタートアップと何が異なるのか? ということだ。今から当時のデータを確認できるか? は分からないが、出来る範囲で分析してみよう。

僕は約20年以上もの間、インターネット関連業界で仕事をしてきたが、ソースコードは書けないし、エクセルもまったくダメ。でも、嗅覚には自信があることもあり、自分の直観と運の良さに甘えて来たが、これからの人生で僕がやりたいことを実現するには、上述のとおり、「分析」と「科学的アプローチ」が必要だ。

つまり、数値化が得意で、エクセル操作スキルが高く、ちょっとしたコードなら書ける人が必要だ。そして、そこそこ英語ができる必要がある。

そういう人を募集できるように、まずは、ピッチデックを作らないと!