元「新日鉄」の起業家、オーリック・システムズの幾留さん。

今週の月曜日、いつものとおり、法政大学ビジネススクールでの授業があった。

今週は、ウェブのログ解析ソフトを開発・販売しているオーリック・システムズの幾留さんにゲスト講師としてお越しいただいた。

幾留さんは、1958年生まれの現在50歳。今回のゲスト講師陣の中では最高齢だが、そのご年齢に相応しい、とても示唆に富んだ話をして下さった。

幾留さんは、東工大の大学院を出て、新日鉄に就職。その後、社内留学にて「カリフォルニア工科大学」に留学し、そのまま現地に「居着いた」。当時の新日鉄は、オラクル等のI.T.系ベンチャー企業にかなり積極的に投資を行っており、投資先のモニタリングや新規事業の開発等の仕事を担当する現地法人(子会社)での仕事に魅せられていったそうだ。

新日鉄の立場で開発したある製品が米国企業に支持され、それを販売しようとしたところ、諸事情によりそれが困難だったことにより、当時の仲間数人と一緒にオーリック・システムズをカリフォルニアで創業した。

その後、ネットバブルの崩壊があり、紆余曲折を経て、ウェブのログ解析ソフトの開発に「業態変換」し、現在に至っている。

ご本人は「さらっ」としか話をされていないが、かなりのご苦労があったはずだ。

講義は、自社の事業内容に関する話の他に、I.T.産業の日米比較、起業に関する国際比較、生き残り、成長するベンチャー企業の条件等、まさしく、ビジネススクールの授業に相応しい内容だった。

いくつか、その内容をご紹介したい。

1. I.T.産業の日米比較(Forbes the Global 2000 より)
・Forbes による主要企業に占める「I.T.系企業」の割合を日米で比較すると、米国:約10%(全産業中:4位)、日本:1%あるかないか。
・日本のソフトウエア輸入額: 約9,200億円(輸出額:約90億円)

2. 起業について(GEM reports 2006)
・起業する能力はありますか?(2006年) 米国:50.2%、先進7カ国平均:40.8%、日本:15.7%
・実際に起業している人の割合(2006年) 米国:7%、先進7カ国平均:5%、日本:2~3%
・ベンチャー企業1社への平均投資額  日本:6,000万円(調査国中の最下位)、米国:9億円(最高位)

3. 日本の国際競争力: 1997年(I.T.革命の黎明期)を境に急速に下降。1996年:4位→1997年:17位、2008年:22位

4. 企業の寿命は30年(日経NEEDS調査)
・若い企業の方が「成長性」に関する得点が高い。企業規模のみ「社歴」が長い程、大きい。
・日本が国際競争力でNO.1だった時代は、戦後の復興期に勃興した企業の内、松下電器(現パナソニック)、SONY、ホンダといった優良企業の社歴が「30年前後」だった時期と重なる。

5. I.T.ベンチャーの戦略
・市場の選定(伸びている市場か?自社の強みが活きる市場か?)
・差別化できるポイント(強み)に集中する。
・セグメントリーダーになる。

どれも当たり前のことと言えばそれまでかもしれないが、実際に自分で、それも「異国の地」で事業を興して来られた方の話には、言葉の表面的意味を超えた深い示唆があった。

僕のブログ読者の皆さんにとって、少しでも参考になれば幸いである。

幾留さん 日米往復でご多忙の中、本当にありがとうございました。