ミハエル・シューマッハ

F1に興味のない人でも、彼の名前ぐらいは知っているだろう。アイルトン・セナなき後のF1界を引っ張ってきたミハエル・シューマッハが遂に引退した。

僕はセナの大ファンで、彼が事故死をした時は、1週間ぐらいは立ち直れず、当時、婚約中だった妻が、結婚を延期しようか?と言ってくるほどに落ち込んでいた。

そのセナに憧れていたシューマッハのことを僕は特に好きだったわけでもなく、ファンだったわけでもないが、彼のことで、とても強く印象に残っていることがある。

それは、セナの持つF1での優勝回数である「41回」という記録にシューマッハが並んだ時の記者会見での彼の姿だ。

シューマッハは、鉄のような意志の持ち主(だと思う)で、自分の感情やモチベーションを常に最高の状態にコントロールして、つけ入る隙がないような人に見えていたが、その記者会見の席で、なんと泣き崩れてしまったのである。

セナに憧れてF1の世界に入り、そのセナに追いつき追い越そうと頑張っていた25才の時、シューマッハの目の前を走っていたセナがマシントラブルにより事故死をし、そのセナの後を継いで必死になって頑張ってきたシューマッハにとって、セナの偉大なる記録に並んだことは、何とも表現できない、僕らのような凡人には到底想像すらできない想いがあったのだろうと思う。

しかし、別の見方をすれば、ターミネーターとまで呼ばれていたシューマッハも、内心では必死になって「自分自身と戦っていた」のではないか?と思われ、彼の人間らしさを垣間見た瞬間だった。

そのシューマッハが、今期限りでF1を引退すると表明した後、テレビで放映される彼の表情には、とても晴れやかで和やかなものが感じられた。

ある極限まで上り詰め、自分の限界ギリギリのところで生きていた人だけが判り得る、充実感があるのだろう。

マラソンの有森裕子さんが、自分で自分を褒めたいと思うと言っていたことがあるが、ストイックにそこまでの努力ができる人だけが、何かをつかめるのだろう。