起業家の「倫理観」

昨年の夏だったと思うが、グロービスの堀さんと簡単な議論をしたことがある。それは当時、堅調に推移していた新興市場における「リスク要因」についてだった。

堀さんとはそれまでにも何度か議論をしたことがあるが、彼は必ず、まず最初に相手の意見を聞いてくる。そして、その意見を受け止めた後、自分自身で考えてボールを返してくる。返されたボールを受け取ることで、こちらの思考が促され、結果として、両者にとって有意義な結果を得ることが多い。

「新興市場におけるリスク要因は何だと思う?」と訊かれた僕は、「金利上昇リスク」「基幹銘柄の業績向上による個人投資の資金の流出」「I.T.系ベンチャーの説明がつかないPER(最後はババ抜きになる)」等、いわゆる優等生な回答をした。

すると、それを聞いた堀さんは、しばらく考えた後、「起業家の倫理観はどうだろう? 例えば、堀江さんとかって、自分の株をだいぶ売っちゃったんでしょう?」と言ってきた。

それを聞いた僕は、「確かにそれ(そういうリスク)はあるな・・・」と思った。

その半年後、実際にそういう出来事があったわけだ。

堀さんの考えには同調できないことも多々あるが、こういう「直観力」とも言える思考力は素晴らしいと思う。

話しは変わるが、日経新聞の朝刊で一昨日から始まった連載記事(1面)に「日本を磨く」というものがある。

最初が、経団連の会長に就任された「御手洗冨士夫氏」。2番目が、首都大学東京の学長である「西沢潤一氏」。そして、3番目(今日)がソフトバンクの「孫 正義氏」だ。因みに、亡くなった僕の父も「正義」といったこともあり、孫さんには親近感を感じる。

当たり前の話しだが、いずれの話しも深いものだった。

その中で僕の印象に残っているのは、御手洗さんの「最も大切なのは広い意味でのイノベーション力だと思う」「経済のグローバル化は止めようがないが、国や文化ごとのローカリティ(地域性)は必ず残る(要約)」という発言と、西沢さんの「横並びやめ独創尊べ」というタイトルのもと、「鑑識眼のある人に評価を任せ、有望と思われる研究テーマに資金を優先的に配分する」というもの、そして、孫さんのヤフーBBの時のことを例に挙げての「逆風の中でも挑戦し続けることの大事さを学んだ」という発言である。

孫さんほどの偉大な人であっても、「学んだ」と言っている。その姿勢には、言葉がない。

その孫さんが、記者の方から「ライブドア事件」に関するコメントを求められて、「あつものに懲りてなますを吹いたら、挑戦者が減って元も子もなくなる」と言っている。僕もそう願いたい。

最後にもうひとつ。僕は、御手洗さんが言っている「キヤノンが終身雇用にこだわるのは、それが息の長いイノベーションを生み出す源泉になっているからだ」というところが気になった。

御手洗さんは、「それが世界中どこでもベストといえる仕組みとは限らない」とも付け加えている。

これを拡大解釈すれば、「すべての会社にとってベストな仕組みとは限らない」といえるのではないか?業種によっても、何が「イノベーション」を生み出すのか?は異なるだろう。僕はそう思う。

因みに、ドリームビジョンでは、人々の「生き方」や「キャリアデザイン」においても「イノベーション」があると考えている。「ブレイクスルー」と言い換えてもよい。何かを成し遂げるには、それが大きいことでも、小さいことでも、そこには必ず、何らかの「自己変革」があるからだ。

ドリームビジョン的に言えば、「Innovate your life !!!」である。尚かつ、「その人らしく」。

最後と言いつつ、話しが長くて恐縮だが、梅田望夫さんが「ウェブ進化論(かなり影響を受けた)」の中で「製造業の経済」を経験しているか?否か?ということを言っているが、僕は「それ」を経験していない。社会に出てから、一度も「製造業」に携わったことがないのである。

僕は、「そのことは非常に大きな意味(影響力)を持つ」と感じている。

僕流に言えば「人生はすべて必然」なので、極めてアナログな思考特性の僕が、こうしてネットビジネス(的)なことをやれているのは、そのことに関連があるような気がしている。