起業家は尊敬されない?

インタースコープで言うところの「伝説のインターン」で、大手の広告代理店に就職した人間がいる。

久しぶりに彼と会った時に、彼が言っていたことが印象に残っている。

「平石さん。うちの会社の同期でベンチャーに転職したいと思っている奴は、ひとりもいないと思いますよ」。

僕は大手の広告代理店からベンチャーに転職した人を何人も知っているので、ひとりもいないというのは大げさであり、学生時代に統計を選考していた彼にしては誇張した表現だと思ったが、彼の発言の本質は、これだけベンチャーが注目されるようになった現在でも、まだまだ、ベンチャー企業に対しては「君子危うきに近寄らず」という認識が根強いのだろうということだ。

もう少し具体的に論じてみると・・・

彼(はそうでもなさそうであるが)のように一流大学を出て、一流企業に就職できた人間は、余程、自分でやりたいことがない限り、その「ブランド」と「経済的恩恵」を捨ててまで、自分では想像も出来ない荒野?へ行こうとは思わないということだろう。

俗に言う一流企業に就職できた人にとっては、その会社では実現できない、どうしても自分でやりたいことが無い限り、実際に享受している恩恵を捨ててまでベンチャーに飛び込む経済合理性がないし、そもそもベンチャー企業のカルチャーが社会に認識されていない、つまり、常識的に考えて「リスク」は想像できても「リターンとベネフィット」は想像しにくい状況では、「飛び込む」に値するか否かの判断自体が難しいのだろう。

上記のことに関連するエピソードがある。

ドリームインキュベータの堀さんの講演会で聴いたことだ。

ベンチャー企業(を起こす人)にとって現在の日本の良いところは、「上場しやすい」「資金調達しやすい」という点。

一方、悪い(ハンディになる)ところは、「アントレプレナーシップを尊敬する文化がないところ」と言っていた。

数字を挙げると、「起業家を尊敬するか?」という質問に対して、いつの調査結果かは分からないが、「尊敬する」と答える人が日本では「10%」しかいないそうである。今は多少は変わっているかもしれない。

諸外国はどうか?というと、アメリカ:90%、ドイツ:70%であり、ジェントルマン(別の見方をすれば階級社会)の国と言われるイギリスでも40%が「起業家を尊敬する」と言っているという。

お隣りの韓国はどうか?というと、具体的な数字は忘れたが、過半数を超える人が「尊敬する」と言っているそうである。

僕の知り合いで早稲田大学に通う女性のエピソードを紹介しよう。

彼女は大手企業からの内定を取れる実力はありそうだが、そもそも、大手企業に就職する気がなく、インターンをしていたベンチャー企業に就職しようと思っているが、両親は世間体?を気にしてか、頑に「大手企業の内定をもらいなさい」と言っているそうである。

僕の両親は、父親は総合病院の事務長、母親は教師をしていたが、僕に「一流企業へ就職しろ」とは一度たりとも言ったことがなかった。諦めていたのかもしれない(笑)。

父はその代わりに、「俺が幼稚園を創ってやるから、お前はそこの園長先生になれ」と言っていた。おそらく、僕という人間の個性や価値観を見抜いていたのだろう。

母親はいつも僕に対して、「結婚する時は、自分と似ている人だけは止めなさい。電流もプラスとマイナスだから流れるのであり、プラスとプラス、マイナスとマイナスではぶつかり合うだけで、上手く行かないから。あなた達(僕は父とよくぶつかっていた)はそっくりよ」と言っていた。

自分の両親ながら、素晴らしい指摘であると思う。

話を元に戻すと、日本を進取の気質に富んだ社会にするためには、価値観を変えて行く必要がある。

僕が教育的な観点の事業を立ち上げたいと思う理由は、そこにある。