第7回 吉松 徹郎氏 – 法政大学MBAとの共同講座 2006/11/13 (2)

起業のリスクについて

平石:
D&Iオープン講座も今日で7回目になりますけども、 個人的には今日の質問が一番論点が揃っている、というかですね、本当にみなさんの質問のポイントが、 収斂されていて面白いなと思っています。 「起業した一番のきっかけは何ですか」という質問があるんですけれども、 それはご本人からもお話しをして頂いたわけなんですが、 可能性は自分で凄い感じたわけなんですよね。そこで、そのときにこれ失敗したらどうしようとか、 特に考えなかったのですか?

吉松:

写真:吉松 徹郎 氏

いや、まったくなかったですね。
コンサルティング業界特有なのかもしれないんですけども、やっぱり10年残っている人ほとんどいないんですね。 そうすると、就職するときにも「何年この会社にいる」というのを内定前にみんなで話しているわけです。 ベストなのは、パートナーとしてアンダーセンの中で、トップに残っていくという道筋ですが、それはやは り、望みが薄いんですね。
もう一つは外に自分の能力を発揮する場所を見つけていきたい、というのがベースにありました。その後ちょうど3年たって、 じゃあ会社をやるって言ったときにそのまま残るか、 それとも出るか、って考えました。
そのときに僕が考えたのは、5年目がきたときに、5年間アンダーセンにいました、というのと、 3年半のコンサルと1.5年のベンチャー経営の経験と、 どちらがマーケットバリューが高いかというと、 圧倒的に後者の方が高かったんです。
また、僕自身は起業の準備を全くしてなかったんです。 たとえば、起業の準備で1000万貯めた
そこで失敗したら1000万がとんでいく。 その準備の期間に3年かけたら3年損になるわけですよ
僕の場合、たった2ヶ月と300万だったら、リスクが一番少ないのでは、と考えたので、「ああ、じゃあ今しかないな」と思いました

web2.0について

平石:
web2.0のマーケティングについて伺います。
昨今のweb2.0という流れについて吉松さんが考えておられること、それとアットコスメを結びつけるときに、 こういう風な可能性があると思っている、 などについてお話頂けますか。
吉松:
web2.0 は難しいですよね。web2.0について話すとき、 必ず聞いているのはweb2.0によって、社会の行動の話が変わることの話をしたいのか、 web2.0によってこれから投資する会社の話を聞きたいのか、 web2.0によってマーケティングの仕組みが変わることなのか、全く話す軸が違うんですね。 web2.0によって社会構造は明らかに変わると思います。 それはGoogleMapもそうですし。

平石:
わかります。それは私もそう思います。

吉松:
ただ、web2.0によって投資するインターネット企業が、 大きく変わるかというとそんなに変わらないと思います。何かしらもちろん変わりはありますけど、 インターネットからバイオに投資家が動いた、 という部分ではあまり変わらなくて、多分出来る判断の一つだけだと思います。

マーケティングの仕組みがどこまで変わるか、 というと実はアットコスメがこれだけ集めても、 マーケティングにフィードバック出来ていない、 ということは広告ビジネスしかまだ当面は成り立たないんだろうな、とも考えております。

今から起業するとしたら

平石:
吉松:

写真:吉松 徹郎 氏

もし今から起業するとして、今はビジネスのチャンス をどんなところに見い出していますか。

実は、2001年、2002年とアイスタイルから出資したことが、 あります。どこに出資したかというと実はお笑いの会社です。当時なんだそれは、って大分言われたんですけれど、 音楽と違って、お笑いってインディーズってないんですね。面白いのが、音楽はCDというメディアに焼くので、 インディーズという手法で、 流通に乗らなくても自分で焼くことが出来ます。そこからインディーズっていうものができた。

お笑いというのは同じコンテンツでありながら、 テレビに出るしか収益化するモデルがないので、 実はお笑いのテレビに出ている番組を見ていると、 20組から30組しか出ていないんですね。 残りは何千組というのが500円とか1000円などの、 安いお金で使われていて収益モデルがない。そこでコンテンツで見てみると、 3分間以上のコンテンツは多分見ないだろうと。 3分以内でまとまるコンテンツというと、 3分間クッキングとお笑いしかないんですよ。 著作権という視点で見ると、 音楽が着メロから着うたになった瞬間に、 既得権益者が増えていく、映像になると今度は脚本家とかが増えていく。

お笑いは自分で書いて自分でやっているので、 既得権益のユーザーが圧倒的に少ないわけです。

インディーズなので市場のギャップがあるところに、 僕らはどうしても入りたいので、 結果的にずーっとそれで赤字の期間を3年もやってるんですね。 今は軸が離れてしまいましたけど、 今でも多分吉本を超えてるお笑いサイトは、 そこだけかな、と思っています。

基本的にそういう具合で選んでいってるんですが、 少なくとも商品にできるというかコミュニティにできる、ということを考えると結果的に、 ユーザーからお金を集めるしかできないモデルだったので、 難しかったですね。

アットコスメの今後について

平石:
アットコスメの今後について、お聞かせください。

吉松:
アットコスメをやってきて、 ユーザーのクチコミで人気の商品が売れるかというと、 売れることは売れるんです。ただ、クチコミで人気がない商品が売れないか、 というとそんなことないんですね。 やはり小売店の仕入れの傾向は、ユーザーが評価している商品ではなくて、 利益率がいい商品を仕入れるわけです。 ということは、POSデータに反映してくるのは、たくさん仕入れた商品ほどPOSデータに反映されるわけですから、 仕入れられないかぎりはPOSデータに反映されない。となると、アットコスメで人気になっている商品は、 クチコミでいいからということだけでは、店頭に並びにくいんですね。

ですからアットコスメとしては、 こういうモデルで書いています。 たとえばシャンプーなんて全部値段が一緒なんです。どんなにメーカーがマーケティングコストをかけようと、 ユーザーはわからない。 ただ店頭に行くと、あるマツキヨのデジポップみたいなもので、ピッとやるとユーザーの評価点数が5.1で、 他のある商品が2.5とかだったらどうみたって、 いい方を買いますよね、10円高くても。要は店頭サイドで価格を上げる仕組みっていうのは、 日本のマーケティングにおいては、どこも作れていないわけですよね。店員さんのサービスっていう以外では。 それが出来るようにしたいなと思っています。