第06回 保坂 高広氏 vol.1 (4)

第06回 保坂 高広氏 vol.1 (4)

祖母との約束。

「『ボクシングは怖いけど、せっかくやっているならプロになりなさい』と言って、ずっと応援してくれていたんです。その祖母が、プロテストに落ちたその 10日後に亡くなったんです。僕が落ちたまま、亡くなっちゃいました。プロテストを受験した多くの人は、落ちたらそのまま辞めちゃうんです。『ダメだ。もうこれ以上やりたくない』と。プロテストは、物凄く疲れるし、物凄く怖いんですよ。落ちたら今まで練習してきたことが水の泡になるような気もして。あんな緊張は今までにしたことがないし、今後もないと思います。それで、僕ももう嫌になっちゃたんです。でも、その10日後に(お祖母さんが)亡くなっちゃったので、『死んでもプロになる!』と誓いました」。

写真:保坂 高広 氏

「亡くなった叔母のためにも、絶対にプロになる!」と誓いました。

さて、自分のことを最も応援してくれていた、そして、大好きだったお祖母さんのためにもプロテストに合格しなければと思った保坂氏だが、4月からは「就職」することになっていた。

彼は住友商事グループに就職し、マツダ車の輸出を担当することになる。仕事は忙しく、終電帰りも多々あった。当然、ジムには通えない。それでも、プロテストに合格しなければいけない。

「(ジムに行くために)上司がトイレに行った瞬間、カバンを持ってバーっと走って帰ったりしていました。それをやると、次の日に仕事が溜まるから、また終電。その次の日に、また、上司がトイレに行ったら・・・という生活をしていました。終電で帰っても、深夜2時頃から走ったりしたこともありました」。

「練習が少ないと、恐怖心が増すんですよね。相手は毎日死ぬ気で練習をやってきているから。自分が休んでいた時に、相手は必死の練習をやってきていると思うと、ますます怖くなる。(中略)落ちた時のビデオをみて、テクニックじゃなくスタミナが課題だと思っていたので、土日はひたすら走りまくっていました」。

そんな努力が実り、就職してから7ヶ月後の11月の再テストで、彼は見事にプロテストに合格。遂に「プロボクサー」になったのである。

次回に続く。

※文章・写真: 株式会社ドリームビジョン 平石郁生