第05回 伊佐山 元氏 vol.1 (5)

第05回 伊佐山 元氏 vol.1 (5)

一番目になる。

スタンフォードの素晴らしいところは、エリック・シュミット(Google CEO)やスコット・マクネリー(元サン・マイクロシステムズCEO)、スティーブ・ジョブス等の著名起業家や経営者が普通に散歩していたり、ランチを食べていたりするところである。また、ベンチャーキャピタリストも頻繁にキャンパスに顔を出しているので、大学側が「卒業生」と彼らを結びつけてくれる。日本の大学では考えられない「人的インフラ」が整っているのである。

そんなインフラのお陰で知り合ったDCMのパートナーのひとりと夕食を共にしながら、伊佐山さんは自分のことをこんなふうに語ったそうだ。

「自分の夢はこういうことを考えていて、自分は妹を亡くして、その後は自分ひとりになって、やりたいことはすべてやるつもりで今を生きているから、怖いものは何もない、という話をしたのです。その時、『ベンチャーキャピタルは投資する仕事なので、あなたのやってきた起業の経験も生きるかもしれない。あなたのビジネスプランが固まるまでDCMで働いてはどうか。子供が2人もいるし、お金を稼がなくてはならないでしょう』という、とても親切なアドバイスをいただきました。私もベンチャーを実際に見ることができ、かつてやったベンチャーがいかに稚拙だったかということも分かるし、何をすべきかも分かるはずですよね。また、お金も貰えるし、いるだけで自分に必要なビジネスプランも良くなりますので、入りました。まさに一石二鳥です」。

ちょうどDCMでの1年契約の任期が来た頃、今度は「せっかくだからシリコンバレーでベンチャーキャピタルの仕事をやって、世界に通用するベンチャー企業を育ててみないか」と勧められる。

「サンドヒルのベンチャーキャピタルに、あなたのような純粋な日本人は1人もいない。日系のVCはたくさんあるし、日本人でここに住んでいて、エンジェル投資している人はいっぱいいるけれど、アメリカのベンチャーキャピタルで仕事をしている日本人はゼロだ。あなたは一番目になってみたくないか?」と口説かれた。

写真:伊佐山 元 氏

駄目でも何も失うものはないですよね、誰もできなかったのだから。

それに対して伊佐山さんは「クールな頭脳」で、こう答えた。

「日本人で、2年間MBAで勉強しただけで、しかも、アメリカで働いたこともない人間が、どうやって成功すると思いますか?」

「『いや、絶対に世の中変わってくる。私は絶対にアジアの時代が来ると思っている。あなたの経験を活かして、この辺でぬくぬくと育った WASP(White Anglo-Saxon Protestant)のエリートを追い抜くチャンスは絶対に来るよ』と言ってくれました。それが本当にそうなるのかは分かりませんでしたが、『まあいいかな、後ろから追い抜くのもいいな』と思いました。半分は自分のエゴですよね。自分はここでできるかどうかやってみて、駄目でも何も失うものはないですよね、誰もできなかったのだから。やっぱり日本人には無理な世界で、日本人がベンチャーキャピタリストをやるなら日本でやればよくて、なんでアメリカでやるんだと。駄目でもいくらでも言い訳はできるし、失うものはない。うまくいけば、逆に誰もできなかったことをやったということで、気持ちいいだろうなと」。

次回に続く。

文章・写真: 株式会社ドリームビジョン 平石郁生