第01回 岩瀬 大輔氏 vol.2 (2)

第01回 岩瀬 大輔氏 vol.2 (2)

留学していなかったら、この会社は無かった。

HBSへの留学は、彼の人生に大きなインパクトをもたらしたのは間違いないが、戦略的に考えられたものではない。リップルウッド時代に「無力感」を味わったことがきっかけになっている。
彼はリップルウッドでの仕事を通じて、事業を行う人、つまり、経営者こそが最も尊いし、実際に「やる人」こそが最も価値があることに気づき、自分もそうなりたいと思ったそうだが、まだまだ実力が足りないことを痛感する。それを克服しようと思ったのが、HBS留学を考えるきっかけになった。
しかし、実は、それよりも、もっと大きな要因がある。彼は、そのことを「人生の運命とかタイミングとかなんですけれど」と語っているが、後に結婚をすることになる、当時付き合っていた女性の存在があった。
彼女は、彼が留学するずっと前からNew Yorkに留学しており、「アメリカに来ないなら別れる」と言われたことが直接的な引き金になっている。とてもチャーミングなエピソードだと、僕は思う。
岩瀬氏は、その経歴から、冷静沈着、合理的、論理的思考の持ち主と捉えられがちだが、実は、とても「ピュア」な人であり、自分の「感情」にとても素直な人である。
それが、彼の魅力であり、彼を「アントレプレナー」たらしめている要素のように思う。

写真:岩瀬 大輔 氏

HBSに留学して、自分のアイデンティティみたいなものを、より強く意識するようになりました。

僕は、岩瀬氏へのインタビューを通じて、数年前に読んだ、ある論文を思い出した。

それは、「What makes entrepreneur entrepreneurial.(何が起業家を起業家たらしめているか?)」というタイトルで、米国ワシントン州立大学のある女性が書いたものだった。彼女は、その論文を書くにあたって、米国の著名な起業家20人へのインタビューを行い、その分析から次のようなことを論じている。

成功した起業家20人に共通していることは、誰一人として、最初から今のビジネスをやろうと思っていたわけではないということ。その時々の自分に「与えられていた(持っていた)材料=Given Means」で何ができるか?という意思決定の積み重ねが、結果的に、彼・彼女を成功に導いたビジネスモデルを創らせている。

ある意味、偶然の積み重ねが成功に繋がったということだが、それは、単なる偶然ではなく、Given Means の中から「自分の意思」で何をするかを決め、その結果が次のGiven Meansを生んできたわけであり、それは「必然」の結果であると思う。

大学一年生の時から一生懸命に司法試験の勉強に励み、その甲斐あって在学中に合格し、それがある意味、彼の人生における「保険(安心材料)」となり、ダメ元でBCGに就職。そこで知り合った先輩に誘われてICGに転ずるが、ネットバブルの崩壊によりICGは日本から撤退。そして、リップルウッドに転職。自分の無力さを知り「傷心」の岩瀬氏に、彼女からアメリカに来ないと別れると迫られ、留学。

その時々の自分の目の前にあった出来事(材料)と正面から向き合い、社会の判断基軸ではなく、自分の気持ちに素直に意思決定をしてきた結果が、今の岩瀬氏を創っている。