Google も参戦!米国西海岸にみる「電動スクーター戦争」!

ここ数回はヨーロッパのスタートアップシーンに関するレポートが続いたので、今回は久しぶりにシリコンバレーの話題をお届けしたい。

自動車産業は今、100年に一度と言っても過言ではない大転換期にあることには、誰もが同意するところだろう。米国では、その地殻変動に「新たなムーブメント」が起きているようだ。

弊社ベンチャーパートナー Ron Drabkin(シリコンバレー在住)が、米国西海岸で加熱する「電動スクーター」について、興味深いレポートを書いてくれた。

Visit Santa Monica, and You’ll See – Scooters are Everywhere!

ロサンゼルス(LA)は米国における自動車カルチャーのホームタウンとして有名である。しかし今日、LAの西地区あるいはサンタモニカを訪れると、一風変わった新しい乗り物を目にするだろう。殆ど「すべてのストリート」と言っても過言ではない。クルマと「電動スクーターに乗った人々」が、道路を共有している。

米国では「Electric Scooter(電動スクーター)」と呼ばれているが、日本では「キックボード」と言った方がしっくりくるかもしれない。その「電動スクーター」は、ロサンゼルスやサンタモニカに限らず、米国の他の都市にも急速に進出している。

※サンタモニカの路上。電動スクーターで移動する人たち。

Massive Fundraising

この米国発の新しい電動スクーターは今、日本円にして、100億円単位の資金を調達している。

TWO TOPの一社、Bird は今年6月28日、Sequoia Capital をリードインベスターとして「$300 million ($=110円換算で330億円)を調達。評価額は「$2billion (2,200億円)」。今までに$415 million (440億円)を調達している。

The New York Times が現地時間2018年7月9日付けで報じたところによると、競合のLimeは、GV (Google Ventures) をリードインベスターとして「$335 million (368.5億円)」を調達。投資家には、Uber も含まれる。評価額は「$1.1 billion (1,210億円)」だ。

自動車大国の米国で何故、Sequoia Capital, Google, Andreessen Horowitz 等の錚々たる投資家が「電動スクーター」に何百億円もの資金を投資するのだろうか? どうやら、電動スクーターは、クルマ社会の米国が抱える問題を解決する可能性を秘めているらしい。いくつかの論点を紹介したい。

-Electric Scooters are fast, cheap, convenient, and good for the environment.

電動スクーターは「速い、安い、便利。そして、環境に優しい」。バスを待っているよりも、Bird や Lime の方が早く見つけられる。尚且つ、Uber や Lyft よりも、安くて速い。

サンフランシスコを例に取ると、Caltrainの駅からFinancial District まで、道路が渋滞していても、電動スクーターなら「約10分」で行ける。料金は「3ドル」だ。Uber で行くと約20分、料金は2倍かかる。

-Disruption is already happening in the transportation industry.

冒頭でも述べたとおり、自動車産業は歴史的転換期にある。電気自動車 (Tesla)、セルフドライビングカー、カーシェア、Uber/Lyft等が、既存のクルマ社会をディスラプトしようとしている。電動スクーターは、そのムーブメントに乗ることができる。

Fear Of Missing Out (FOMO).

シリコンバレーのVCは、基本的に「ムーンショット狙い」である。とんでもなく大化けする可能性があるものを求めている。Uber/Lyft, facebook 等に投資し損ねたVCは、今度こそビッグゲームに投資しよう!と虎視眈々と狙っている。

How Do the Scooters Work

電動スクーターの使い方を説明しよう。Lime のアプリを開くと地図が表示される。Lime がサービスを行っているエリアであれば、電動スクーターは到るところに置いてあり、ものの数分もあれば、見つけられる。

Bird や Lime 等の電動スクーターは、Dockless (Decentralized) と呼ばれている。どこかに配車場所があるわけではなく、次の利用者が見つけられるように、歩道や路肩に置いてある。

電動スクーターを見つけたら、スマートフォンでスキャンし、ロックを解除する。あとは乗るだけ。UberやLyft に乗る場合、ドライバーを探し、呼ぶのに5-6分。場合によっては、ドライバーを見つけられず、あるいはキャンセルされることもある。

電動スクーターは、乗り方はとても簡単。時速15マイル(約24キロ)までスピードを出せる。サンフランシスコやサンタモニカのように交通量が多く、渋滞が多いエリアでは、歩道やバイクレーン(自動車専用レーン)を走れるので、大いにして、クルマで移動するよりも速い。目的地に到着したら、その場に乗り捨てるだけ!非常に簡単である。

テクノロジーの視点で見ると、進化したバッテリー、スマートフォンアプリ、GPS等、まさに今しかない!という絶妙なタイミングである。

※LimeのUI。到るところに電動スクーターがあることが分かる。

Banned in San Francisco

極めて便利な電動スクーターだが、実は物議を醸し出している・・・。サンフランシスコが、Bird や Lime 等の電動スクーターの運営を禁止したのである。ストレートに言えば、市内から追い出した!ということだ。

その理由は何か?

サンフランシスコ市の発表によると、電動スクーター運営会社は、Uberと同じ方法でサービスを開始した。つまり、事前に市の当局に許可を求めなかった。「電動スクーター運営会社がきちんと市の当局に許可を申請し、それが受理されるまでは、市内でのサービス運用は認められない」ということのようだ。

電動スクーター運営会社が市の当局から「運営許可」を得るには、その「安全性」を立証することと、近隣住民からの「心配(&クレーム)」に対応することが必要だ。でなければ、市は許可を出さないだろう(電動スクーター運営会社が、サンフランシスコ市の規制をクリアする日も近いという報道もある)。

クレームの殆どは、周囲の人たちの安全性(いわゆる交通事故のリスク)、電動スクーターに乗っている人自身の安全性(殆どの人がヘルメットを着けていない)という「安全性」に関するものと、歩道や路肩に電動スクーターが「散乱」するという「環境面」に関してだ。

もうひとつは、電動スクーターが、“Tech Bros” と呼ばれるI.T.関連企業で働く若い人たちの「シンボル」となりつつあり、彼らの傲慢な態度に対する反感のようだ。一時期、サンフランシスコ市内で騒がれた「Google Bus」を思い出す・・・。

※Bird の電動スクーターに乗る若者たち。Tech業界で働いていてもいなくても、彼らは「Tech Bros」と呼ばれている。

Implications of the Scooter Trend

Lime の発表によると、Lime スクーター利用の「60%」は、クルマ利用の代替だという。もし、米国における電動スクーターの急激な普及トレンドが続くとすると、そこから読み取れる示唆は何だろう?

・クルマを所有する人は徐々に少なくなりつつある。特に、ミレニアル世代では、その傾向が顕著である。電動スクーターの普及は、クルマを持たない生活を益々容易にする。

・クルマの所有が少なくなれば、駐車場も少なくて済むようになる。

・当然、交通渋滞も緩和される。

・Uber や Lyft の需要も減るかもしれない。

・排気ガスも少なくなる。地球に優しい。

What is Next?

電動スクーターは、今後も米国社会に浸透していくと思われる。VCからの多額の資金が、それを可能にするだろう。

リスクがあるとすれば、トランプによる「貿易戦争(報復関税バトル)」だ。Made in China の電動スクーターに「25%」の関税が課せられる可能性がある。しかし、仮に報復関税バトルを回避できなかったとしても(電動スクーターの輸入価格が高くなったとしても)、VCによる多額の資金が赤字を垂れ流しながらも事業を拡大することを可能にするだろう。

今後も電動スクーターは、市街地や大学のキャンパス、サンフランシスコやLA以外の過密なエリアに普及していくと思われる。

確かに、規制のリスクはある。しかし、米国では各行政区が独自ルールを設けることができる。リスクは、進出するエリアによって異なる。米国全土に同じリスクがあるわけではない(その点は日本と異なる)。

むしろ、大きな論点(Big Question)は、サンフランシスコやLAといった過密な都市以外にも、電動スクーターが普及するか? ということだ。

他の論点は、電動スクーターが米国の交通機関に与える影響である。

ある人は、電動スクーターはバスよりも便利で速く、近距離の移動手段としては、バスに取って代わるだろう、と主張する。さらに、バスや電車での長距離の移動をも、電動スクーターはより便利にしてくれるかもしれない。「Last One Mile」の問題を解決してくれる可能性があるからだ。

日本では、大きな駐輪場が整備されている駅がたくさんあるが、米国には、そのような施設はない。そして、自転車の「盗難」は、大きな社会問題である。電動スクーターは、それらの問題の解決策になるかもしれない。

もうひとつの論点は、移動手段の「多様化」だ。実際、フォルクスワーゲンは、電動スクーターを含めた「新しいカーシェアリング・プログラム:all-electric-car-sharing-service」を、来年から始める予定だと発表している。

Uber や Lyft は、バイクシェア(自転車のシェアリング)の運営会社を買収している。彼らは今のところ、米国のライドシェア市場を独占しているし、バイクシェアの市場は大きいとは言えない。しかし、電動スクーターのように、ライドシェア市場を侵食するサービスが出てくる可能性は否定できない。

そこから予測できることは、近い将来、ライドシェア、カーシェア、セルフドライビングカー、バイクシェア、電動スクーター、そして、バスも電車も「ひとつのアプリで乗れる日が来るかもしれない」ということだ。

「巨大な顧客基盤」を持つUberやLyft は、仮に自社のサービス(ライドシェア)がシュリンクしたとしても、移動手段のプラットフォーマーになることを考えているはずだ。

原文:Ron Drabkin, 当社Venture Partner(シリコンバレー在住のシリアルアントレプレナー&エンジェル投資家)をもとに、平石郁生(当社創業者 代表取締役社長)が加筆および編集。