Entrepreneur First
リード・ホフマンが魅せられたロンドンの起業家養成スクール!

「Unicorns(ユニコーン)」という単語がスタートアップ界隈に限らず、広く社会に流通するようになって久しくなる。当初はその発祥の地として、シリコンバレー(米国)がほぼ独占状態だったが、ここ数年、米国外で誕生し生息するユニコーンが急増していることは周知の事実である。

Crunchbase Unicorn Leaderboards によると2017年9月25日現在、世の中に存在するユニコーンは「267社」。その合計時価総額は「$920.8B($=100円計算で約92兆円。東京都のGDPとほぼ同額!)」。合計資金調達額は「$176B(同約17.6兆円)」である。

 

国別の内訳を見ると、米国に生息するユニコーンが「124社(46%)」。中国には「90社(34%)」が生息。現存するユニコーンの80%が、米中のいずれかに存在している。まさに、米中2TOPの時代である。

また、データソースは異なるが、CBINSIGHTによると2017年9月14日現在、2017年に入りユニコーンクラブ入りしたスタートアップの57%は、「米国外」で誕生しており、スタートアップエコシステムが世界中で勃興していることを物語っている。

では、ヨーロッパはどうだろうか? INVEST EUROPE(Brussels, Belgium)によると、2016年4月現在、50社以上のユニコーンがヨーロッパに生息しており、尚且つ、そのうちの多くが「$10bn(同約1兆円)」企業に成長しているという。

同様に、ヨーロッパにおけるVCの動向を見ると、ここ5年間、VCの投資額は一貫して伸びており、2012年の「€3.2bn(€=132円換算。約4,200億円)」から2016年の「€4.3bn(同約5,700億円)」とへと伸長している。また、VCの資金調達額は、2016年には「€6.4bn(同約8,400億円)」とリーマンショック後の最高額を記録した。

一方、日本国内では、ユニコーンに限らず、スタートアップや破壊的イノベーション=「シリコンバレー」という認識がまだまだ強いし、事実、シリコンバレーの圧倒的な強さは健在であるが、上述のような「FACT」を踏まえて、記念すべきGlobal Startup Review 第一回は、ロンドン発の「スタートアップ養成スクール Entrepreneur First(EF)」の紹介から始めることにしたい。

初めてEF共同創業者のMatt Clifford と Alice Bentinck に会ったのは、2014年7月2日。ロンドンにあるEFのオフィス兼アクセラレーター(Co-working space)だった。その翌々日(7/4)、同じくロンドン市内にあるGoogle Campus(Googleが運営するインキュベーション施設)で「Innovation Weekend London」というピッチイベントを開催するためにロンドン訪問中で、ネットワークを広げるべく、VC、アクセラレーターや現地の起業家に会っていた。

Matt と Alice とは、ロンドン在住のシリアルアントレプレナーであり投資家のChris Wadeを通じて知り合った。

マッキンゼーのロンドンオフィスで同僚だった彼らは、2008年のリーマンショックにより、ロンドンの金融街シティーから大勢の優秀な人材がレイオフされる光景や、2012年のロンドンオリンピックに向けたイギリス政府やロンドン市による多額の投資により、Google, facebook等のシリコンバレー発Tech Giants がロンドンに進出し、多くの若者を吸引する姿を見て、Entreprener Firstを立ち上げることを決断したという。

当時の私は、サンブリッジグローバルベンチャーズという、シード・アーリーステージに特化したVCファンドやアクセラレーションプログラムを運営する会社を経営しており、2011年5月、その活動の一環として「Innovation Weekend」というピッチイベントを立ち上げ、2014年から「World Tour」と銘打ち、ロンドンを含めた海外の主要都市での開催をスタートした時だった。

当時も今も問題意識は、「どうすれば、日本からグローバルなTech Startup を創出できるのか?」「どうすれば、東京のスタートアップシーンをもっとグローバル化できるのか?」であるが、Matt と Alice の問題意識とも相通ずるように思えた。彼らは、伝統を重んじ、重厚長大な産業構造が今なお中心の英国社会を活性化するには、より多くの若者が、特に「技術系の学位」を持つ優秀な人材が、大企業や政府の仕事ではなく、自ら起業することが必要不可欠だと考えたという。

Chris からその話を聞いて、痛く感動し、是非とも2人に会ってみたいと思った。

初期のEFは、女子に特化したアクセラレーションプログラムを運営しており、女性のテックファウンダーを養成することに注力していたと記憶しているが、所謂、ピボットをして、現在のモデルに行き着いている。

EFのユニークな点は、以下のとおり。※プログラム内容は、バッチ毎により良いものへと修正される。

・既に起業した人たち(スタートアップ)ではなく、まだ起業していない「個人」を「起業家として育成する」ことに特化している。

・Y-Combinator や 500startups に代表されるシリコンバレー発のアクセラレーターは、起業家からのアプリケーション(応募)を「待つ」のに対して、EFはヨーロッパ中の「約200の大学」とネットワークを形成しており、公募以外に、各プログラム毎に「約6,000人」の「技術系学位保有者」に、EF自らアプローチする!その中から最終的に「100(〜200)人」を選出する。選出された彼らには、生活費を含めて月£3,000を支給する(最大5ヶ月)。

・仮に100人が選出された場合、約60人は最初の3ヶ月でドロップオフする。EFの投資委員会で選抜された40人は会社を設立し、次の3ヶ月に進む。この時点で「£20-60K」を「8%」で出資する(出資額はメンバー数等を考慮し、決定する)。

・ここがEFのユニークな点だが、同じバッチで一緒になったメンバーからCo-founderを見つけるべく活動する(過去のcohortから見つけてもいいようだ)。そして、次の3ヶ月に進んだ40人で、20社のスタートアップを設立することになる。EFの経験上、Co-founderは、3人よりも2人の方が成功確率が高いという

・そして、入学(バッチ開始)から6ヶ月後、Demo Day に進んだスタートアップには、Convertible Note(株式に転換可能な社債のような形態)で、£70Kを出資する。その理由は、当面の運転資金がないと、起業家ビギナーの彼らは、経済的にも精神的にも余裕がなく、必至で資金調達をすることになり、条件の悪い投資でも受け容れざるを得なくなってしまうからだという。なんという親心だろう!素晴らしい!!

また、EFのポジショニングに関しては、EF 8th Demo Day冒頭でのMatt のプレゼンスライド(本稿タイトルの写真)を参照されたい。

EF 8th Demo Dayは、私にとって初めてのEF Demo Day だったが、プレゼンした14社のスタートアップは、いずれも極めてレベルが高く、創業者たちの約半数以上が「ケンブリッジ大学」を卒業しており、尚且つ、相当数が「博士号保有者」だったことには驚かされた。

「驚かされた」と書いたが、実は今年5月に、EFの新オフィスを訪ねた際、Jade Read という女性(彼女もEF Cohort 出身の一人)から、EFとしてアプローチする対象は、「理想的には博士号保有者」ということを聞いていた。

ところで、そのEFだが、8th Demo Day(現地時間:2017年9月15日)の数日前、彼らを次のステージへと昇華させるだろう、とても素晴らしいアナウンスがあった。

LinkedIn 共同創業者 Reid Hoffman がパートナーを務めるGreylock Partnersがリードインベスターとなり、Mosaic Ventures, Founders Fund(Peter Thiel がファウンダーの一人)等、世界最高の投資家たちから$12.4Mを調達したと発表した。

その内容は、EF共同創業者 Matt自身およびReid Hoffman、また、EF創業当時から彼らをサポートしている Chris Wade のブログでも紹介されている。

How we raised $12m from some of the world’s best investors  by Matt Clifford, Co-founder of Entrepreneur First

Our Investment in Entrepreneur First  by Reid Hoffman, Partner at Greylock and Co-founder of LinkedIn

Entrepreneur First has built over 120 companies so who built EF?  by Chris Wade, Co-founder & Partner at Isomer Capital

最後に、Chris のブログから印象に残ったエピソードを紹介したい。

Chris が初めてMatt と Alice に会ったのは2012年7月16日、Chris が責任者を務めていた UKTI Venture Capital Unit のオフィスだったそうだ。

当時のChris のミッションは、同僚のChristopher Hopkins と共に、英国の「新しい世代の起業家やベンチャーキャピタリスト」と「英国政府」との接点を構築すると同時に、勃興し始めた英国のスタートアップシーンを海外の投資家にアピールする(投資機会をアピールする)ことだった。実は、そのミッションの一環としてChris が東京に来ていた時、彼と知り合った。それも、2012年だったと思う。

MattとAliceはマッキンゼーを辞めて、技術系学位を持つ優秀な人材を「起業させる」ためにEFを創業したが、ご多分に漏れず、今日に至る道は決して平坦ではなかった。

彼らとの出会いは「天国からの贈り物」のようだったと、Chrisは自身のブログで述べている。

冒頭でも触れたとおり、リーマンショックの後、多くの優秀な若者が大企業で働くことだけでなく、自ら起業することをキャリアのひとつとして考え始めており、その萌芽を強力に推進しようとしていたMattとAliceのビジョンは、まさに、Chris が必要としていたことだった。

そのMTGでChrisは、UKTIとして招待した海外の投資家を紹介し、自分たちのビジョンをプレゼンする機会を提供すると、MattとAliceに約束した。また、それに留まらず、Chrisがベンチャーパートナーを務めている Octopus Ventures のEF3(3番目のプログラム)から生まれた「Maigc Pony Technologies(後にTwitterが$150Mで買収!)」への投資実行のサポート、より直接的には、初期のEF ベンチャーパートナーの一人として、また、Co-founderとして立ち上げた Isomer Capital として、EFのファンド組成を手伝い、LPとして投資するなど、様々な形でEFの立ち上げを支援してきた。

Chris に限らず、MattとAliceのビジョンに魅せられたベンチャーキャピタリストたちの支援により、ヨーロッパ有数の起業家養成スクールとなり、シリコンバレーの著名投資家から投資を受けるまでになったEFだが、最初のプログラムでは、EFにエントリーした若者の「両親」から、いったい、EFとは何で?自分たちの子供が僅かな資金援助によるプログラムに参加するロジック(理由)は何なのか?その「経済合理性」に関する説明を求められたらしい・・・。

それを見ていた Rohan Silva(当時、デビッド・キャメロン英首相のシニア政策アドバイザーで、ロンドンTech Cityムーブメントの企画立案者)は、最初の「EF Cohort Meeting」を、なんと、「首相官邸(10 Downing Street)」で開催することを提案したという!!!

そうすれば、「疑心暗鬼な両親」に対して、たくさんの人たちが「EFおよびEF Cohort(起業家志望者)の成功」を支援してくれていることを説明できるだろう!」ということだった(笑)。

上記のエピソードが示唆するように、MattとAliceのビジョンは大勢の支援者を惹き付け、英国に留まらず、欧州全域で広く知られる存在に、EFを育てていった。

Chris はその過程で、MattとAliceを連れてシリコンバレーに行き、現地のVCにEFのビジョンとモデルを説いて回ったことがある。そこでの反応は、こうだったという。

Why would you need to encourage entrepreneurship? 何故、君たちは(英国の若者に)起業家精神を育むべく働きかけなければならないのか?

放っておいてもたくさんの若者が起業し、また、その稀有な環境を求めて世界中から優秀な人材が集まってくるシリコンバレーでは、誰かが若者の起業家精神を鼓舞する必要はない・・・。

しかし、冒頭で紹介した統計データが示すとおり、シリコンバレーだけが起業家の聖地ではなくなりつつある今、その流れは、ここ日本でも起こっている。

日本のスタートアップシーンを「グローバル化」するにはどうすればいいか?日本発グローバルTechスタートアップを多数輩出するには何が必要か?そして、スタートアップに限らず、日本の産業構造を変革していくにはどうすればいいか?そのことを考える上で、Gloabl Startup Review が、少しでも参考になれば幸いである。

平石郁生 シリアルアントレプレナー&スタートアップアクセラレーター(株式会社ドリームビジョン 代表取締役社長)