ロンドンの LoveFilmマフィア!

今月からスタートした Global Startup Review(GSR)第2回は、前回に引き続き、ロンドンの話題を中心に、ヨーロッパのスタートアップシーンについてレポートしたい。

カバー写真(THE TIMES)は、LoveFilmマフィアの一人, Alex Chesterman. ロンドン証券取引所に上場する不動産関連企業 Zoopla CEO(創業者)。

TechCrunch Japan等、シリコンバレーに関する情報は日本語でも流通するようになり、心理的な距離はかなり近くなってきたが、ヨーロッパのスタートアップシーンに関しては、日本のスタートアップ関係者の関心があまり高くない?こともあってか、一部のメディアを除き、殆ど紹介されていない。

しかし、前回のレポートで紹介したように、ヨーロッパのスタートアップシーンは非常に盛り上がっており、ユニコーンも多数、輩出されている。その注目のユニコーンだが、米国発とヨーロッパ発とでは、評価や実力?がかなり違っている。今回は、その違いに焦点を当ててヨーロッパのスタートアップシーンを概観すると共に、ロンドンのスタートアップシーンがいかにして生まれてきたか? を、私の友人(と言っては烏滸がましいが)であるシリアルアントレプレナー兼投資家の Chris Wade(Isomer Capital Partner)との会話を踏まえて紹介する。

前回も説明したとおり、ユニコーンに関する統計は様々なものがあり、情報ソースにより多少の違いはあるが、ヨーロッパには、約40-50社程度のユニコーンが生息すると見ていいだろう。

GP Bullhound」というテクノロジー分野の投資会社兼アドバイザリーファームによると、2016年現在、ヨーロッパのユニコーンは「47社」。その内、36社が「B2C」、11社が「B2B」である。評価額の平均は「$2.8B($=113円で計算すると3,164億円。以下同様に計算)」、資金調達額の55倍のマルチプル(評価額)だ。また、2016年に新たにユニコーンクラブ入りしたスタートアップは10社、ユニコーンクラブから脱落したスタートアップは3社となっている。

では、その顔ぶれはどうなっているのだろう?このグラフには「上場」している企業(例:YOOX, Zoopla等)も含まれているので、GB Bullhound のユニコーンの定義は異なるようだが、ヨーロッパの名誉あるユニコーンNO.1は「Spotify」。評価額は「$8.5B(同9,605億円)」。ご存じのとおり、人口僅か990万人(2016年現在)のスウェーデン発のスタートアップで、日本では2016年9月にサービスを開始している。

※Crunchbaseによると(2017年9月25日現在)ユニコーンは267社あり、その内、米国が124社、中国が90社を占めており、その他の地域が53社となる。インドや東南アジア等のユニコーン数を踏まえると、ヨーロッパのユニコーン(「未公開」で評価額$1B超のスタートアップ)は、40社前後と推測される。詳しくは、GSR第1回を参照されたい。

また、国別のユニコーン輩出数を見ると、第1位:イギリス、第2位:スウェーデン(Spotifyが貢献!)、第3位:ドイツという順である。その経済規模からイギリスとドイツが上位にランクするのは想像に難くないが、スウェーデンが第2位という事実には驚かれた方も多いのではないだろうか?

では、ヨーロッパのユニコーンは、評価額が$1Bに到達するまでに、どのぐらいの時間を要しているのだろう?

B2Cスタートアップは平均7年(平均資金調達額:$294M)、B2Bスタートアップは平均9年(平均資金調達額:$155M)であり、B2Cスタートアップの方が多くの資金を調達し、平均で2年ほど早くユニコーンクラブ入りしている。調達した資金を広告宣伝費等に投資し(マーケティング投資が必要)、急成長していると理解できる。

尚、ヨーロッパのユニコーンの内、EXITイベント(sale or IPO)に漕ぎ着けた割合は半分未満だとしており、EXITに要する時間は、平均で8年以上となっている。特に、B2Bユニコーンは、その所要時間が長期化する傾向にある。

さらに興味深いのは、米国のユニコーンとヨーロッパのユニコーンでは、その「バリュエーション(評価額)」が大きく異なる点である。

具体的には、米国のユニコーンの「PSR(Price to Sales Ratio:株価売上高倍率)」が「46.0x」なのに対して、ヨーロッパのユニコーンのPSRは「18.1x」。それぞれの平均レベニューを比較すると、米国のユニコーンが「$129M(同約146億円)」、対するヨーロッパのユニコーンは「$315M(同356億円)」となっている。

つまり、ヨーロッパの投資家は、スタートアップに対して厳しい評価をするということだ(要求水準が高い)。評価が保守的とも言える。この差は当然、米国のユニコーンに有利であり、世界のユニコーン勢力図にも表れていると言えるだろう。

事実として、欧米のユニコーンの資金調達額を比較すると、その差は歴然としている。

米国のユニコーンが「平均$558M(同約630億円)」を調達しているのに対して、ヨーロッパのユニコーンは「平均$260M(同約294億円)」であり、米国のユニコーンは「2倍以上の資金」を調達していることが分かる。米国のユニコーンは潤沢な資金を使い、積極的な事業投資やM&A等を行うことで、より短期間にユニコーンクラブ入りしていることが推測される。Frontline(アーリーステージのB2BスタートアップにフォーカスしたVC)は、彼らのレポートで「Challenges」の1つとして「US-based startups selling into Europe are often larger and well-funded」と指摘している。

最後に、ヨーロッパのユニコーンへ投資しているVCを見ておこう。ヨーロッパのスタートアップシーンにおける、Index Ventures の影響力の大きさが伺える。

さて、前置きが長くなったが、ロンドンのスタートアップムーブメントがどのようにして勃興し、今日に至っているか? また、そのエンジンは何だったのか? を Chris Wade との話をもとに説明したい。※私は2014年7月から約一年ほど、London Tech City Global Fellow という活動にメンターとして参加していた。

イギリスはご存知のとおり、日本と同様に「ヒエラルキー」社会であり、新陳代謝が起こりにくい産業構造にある。しかし、2008年の金融危機(日本語でいうリーマンショック)以降、ロンドンの優秀な若者は、政府機関、大企業(特にシティの金融機関)、コンサルティングファームといった「エスタブリッシュメント」以外に、自らビジネスを起こす「起業家」というキャリアに興味を持つようになったことは、GSR第1回でも紹介したとおりである。

では、具体的に、何がキッカケとなり、優秀な若者たちを起業へと駆り立てたのだろう? それに対して、Chris は、こう説明してくれた。

2013年に設立された「Deliveroo」というロンドン発のスタートアップがある。ファウンダーは、Will Shu という中国系アメリカ人である。Chris にその理由を尋ねるのを失念してしまったが、このスタートアップの存在は、多くの若者に影響を与え、彼らを「起業」へと駆り立てたという。

ビジネスモデルはシンプルで、画期的なテクノロジースタートアップというわけではない。日本にも類似のスタートアップは存在する。しかし、むしろ、そのことが、オレにもワタシにもできる!と、多くの若者を「起業」へと駆り立てたのではないだろうか? 事実、Deliverooは、GB Bullhound が注目する「Emerging Unicorn Foals(ユニコーン予備軍)」の1社に数えられている。

もう一社、ロンドンの若者に影響を与えたスタートアップがある。「LoveFilm」というスタートアップだ。

彼らは2002年に創業し、2011年にAmazon に「$312M(同約353億円)」で買収されている。“Netflix of Europe”とも呼ばれており、事業内容は社名のとおり、郵便でのDVDのレンタルサービスとOn Demand のビデオストリーミングサービスである。

注目すべきは「LoveFilm マフィア」とも呼ばれる、同社出身の起業家を多数、輩出していることである。

その中の筆頭格は「Zoopla」という不動産情報サイトのスタートアップで、2014年6月、ロンドン証券取引所にIPOしている。また、Chris がベンチャーパートナーを務めている Octopus Ventures は、Zooplaを含めて「計8社」の「LoveFilmマフィア」が創業したスタートアップに投資している!

シリコンバレーではペイパル・マフィア、日本ではネットエイジ・マフィアなる存在がスタートアップ関係者の中でよく知られているが、1つの成功が「成功の連鎖」を呼ぶということだ。

ソフトバンクが買収した「ARM」も人材輩出企業である。例えば、British Business Bank, Legal and General等が出資して設立された「Accelerated Digital Ventures」というユニークな投資会社の投資責任者 Mike Dimelow は、元ARMの投資責任者である。

また、政府も積極的にスタートアップを支援している。例えば、税制面では最大で「£150,000」まで、スタートアップへの投資額の「50%」を収入と相殺してくれる制度がある。

外国人に対する「ビザ」に関しては、その会社が存続する限り、無期限で「起業家ビザ」が発給される!素晴らしい制度である。イギリスは「英語」が母国語というアドバンテージを最大限に活用し、世界中から「若い才能」を呼び込むことに本気で取り組んでいる。

その背景には、皮肉なことに、母国語が英語という「ハンディキャップ」として、母国のスタートアップ環境が未整備で、資金調達もEXITも仲間を集めることも難しいのであれば、シリコンバレーに移住しよう!ということが、起業家精神旺盛な人たちには簡単に出来てしまう!という事実があったという。

結果的には今、母国のスタートアップシーンに大きく貢献しようとしているが、私が親しくしている Keith Teare (TechCrunch, Co-founder) もその一人だ。彼はロンドンで起業したEasynet(ヨーロッパ初のISP)をロンドンAIM市場にIPOさせた後、1997年にシリコンバレーに移住。その後、RealNames(初めてアルファベット以外の文字で検索を可能にしたシステムで、今で言うユニコーンになった)、TechCrunch等を創業した。

ヨーロッパは現在、ロンドン(イギリス)に限らず、フランス、ドイツ、オランダ、イタリア、フィンランド、ルクセンブルク、エストニア等、それぞれの国がスタートアップを支援し、Next Apple, Next Google, Next facebookをシリコンバレーからではなく、自国から生み出したい!と切望している。

2015年11月に初めて参加した「SLUSH」のメインステージで、Super Cell のファウンダー(Ilkka Paananen)が「夢は何か?」という質問に対して、「20年後、次のGoogle, facebook をヨーロッパから生み出したい!」と言っていたことが印象的だった。

しかし、それはあまりに謙虚な答えだ。20年は不要だろう!

日本からも輩出できないはずはない!!!

次回は、ベルリンのスタートアップ環境を紹介する予定である。

※参考:GSR vol.2 で参照した GP Bullhound のレポート。

平石郁生 シリアルアントレプレナー&スタートアップアクセラレーター(株式会社ドリームビジョン 代表取締役社長)