ホームセキュリティ市場に破壊的イノベーションは起きるのか?

昨年10月から始めた Global Startup Review の記念すべき第10回目は、今までとは嗜好を変えて、米国のホームセキュリティ市場を題材にして、何がイノベーションの浸透を妨げているのか? そして、テクノロジーの進歩により、どのような可能性が考えられるのか? について、弊社ベンチャーパートナー Ron Drabkin のレポートをもとに考察を試みた。

日本の「ホームセキュリティ」市場には、ご存知の通り、「SECOM」という巨人が存在する。そして、第2位が「ALSOK(綜合警備保障)」である。

2年前(2016年3月期)のデータになるが、市場規模(ホームセキュリティ以外のオフィスビル等の警備保障も含む)は「1兆3,684億円」。両社を比較すると(2018年3月期)、SECOMは売上:約9,700億円(内、セキュリティ事業:約5,460億円)、経常利益:1,443億円ALSOKは売上:約4,360億円、経常利益:319億円。この2社で、市場の9割以上のシェアを握っている。

しかし、とある調査によると、首都圏における普及率は「6.2%」。決して高いとは言えない。

では、米国はどうだろう? 米国の「ホーム」セキュリティ市場は、日本円換算(110円/$)で約5,000億円(US$4,563m)。やはり、あまり大きな市場とは言えない。この市場のリーディングカンパニーは、140年以上の歴史を持つADTという会社である。SECOMが1962年創業(社歴56年)ということを考えると、米国には、いかに昔からこの市場が存在しているかが分かるだろう。

米国市場では近年、その古典的な市場に、スマートロックと呼ばれる製品等が登場している。しかし、既存企業を脅かし、この市場に地殻変動を起こすまでには至っていない。では、米国のホームセキュリティ市場には今後、どのような変化が起き得るのだろう?

ホームセキュリティには、いくつかの側面がある。もちろん、物理的なセキュリティがある。ドアや壁、窓等のことだ。鍵を掛けることもできる。また、敷地の周囲を塀で囲んだり、警報装置を設置することも可能だ。アメリカであれば、拳銃を用意していたり、大きな犬を飼っている人もいる。

何かトラブルがあった時は、警察に電話したり、親戚や友人に連絡して助けを求めることもできる。また、通報システムから警察や民間の警備保障会社に連絡することも可能である。近年は、ビデオカメラを設置し、リモートで自宅の中を確認したり、侵入者を検知することもできる。

長年、大きな変化が無かった米国のホームセキュリティ市場だが、「変革」が起きそうな予兆がある。

RingAugust Home というスタートアップをご存知だろうか? 彼らは「スマートロック・システム」と呼ばれているプロダクトを提供している。日本では、パナソニックが同様なサービスを提供している。

※上記は、ring 社のウェブサイト。

Ring はアマゾンが、August Home は世界最大の鍵メーカーであるAssa Abloy(スウェーデン)が、それぞれ買収した。

両社に共通する特徴は、スマートフォンを使ったVideo Doorbell(日本でいうインターホン)機能等を有していることだ。

セキュリティのON/OFFを変更することは勿論、留守宅に子供が帰って来たことをスマートフォンで確認し、出先からドアを開けたり、スマートフォンをポケットやカバンに入れたまま近づくと、Bluetooth により、自動でドアを開閉することも可能である。

それにもかかわらず、現時点では、全米の17%の世帯しか、ホームセキュリティ機能を設置していないらしい。また、スマートロック・システムは、2020年までに、米国の「10%以下」の世帯にしか普及しないだろうと予測されている。

では何故、治安という意味では、日本よりも遥かに悪いにも関わらず、ホームセキュリティは、米国の世帯に普及しないのだろうか?

前述のNew York Times の記事によると、最近のホームセキュリティシステムは、いくつかの優れたテクノロジーや機能を有しているものの、値段が高く、また、複雑で簡単に設置できないこと、使いこなすのは簡単ではないことが普及の障害になっていると指摘している。

実際に購入し、使用するに際しては、以下のようなハードルがあるようだ。

<コスト>

例えば、Samsung のホームセキュリティシステムを導入する場合、機材に対して約500ドル(実際にはディスカウントされている)の支出が求められる。それに加えて、屋内のモニタリング費用として、1ヵ月当たり420ドル(1ドル=110円換算で46,200円)を前述のADTに支払う必要がある。また、機材の設置を依頼するのであれば、その費用が掛かる。自分でやるとなると、かなり面倒である。参考:我が家はSECOMを導入している。初期費用:375,530円、月額利用料:4,500円(いずれも税別)。

<システム関連の問題>

米国に古くから存在する「侵入者発見システム」は、しばしば、犬を侵入者と勘違いしてしまうようだ。一方、最近のスマートロックは、従来のカギと較べて、故障する頻度が高いらしい。また、スマートフォンを利用するため、故障したり、バッテリーが無くなってしまうリスクがある。

<運用上の問題>

モニタリング会社は、契約世帯に何か問題があると連絡してくるが、その時に「パスワード」を尋ねるそうだ。契約者本人かどうかを確認するためだという。しかし、ホームセキュリティ機器のパスワードを憶えているだろうか?(因みに、SECOMからの連絡時に、パスワードを訊かれたことはない。)

<ホームセキュリティは、実際に機能するのか?>

ビデオカメラを設置していれば、何か犯罪があった時、録画により、その状況を検証できるという点では非常に有効である。しかし、実際に誰かが侵入してきた時、ビデオカメラは、安全の確保に有効だろうか?

このようなことを考えると、費用対効果として、ホームセキュリティ機能を設置することに疑問を感じてしまうということなのだろう。

ホームセキュリティ市場における破壊的イノベーションは起きるのか?

しかし、最新のテクノロジーにより、過去何十年もの間、大きな変化が無かった米国のホームセキュリティ市場にも、変革の予兆が見受けられる。

まず最初に挙げるべきなのは、日本でもお馴染みの「顔」認証技術である。ご存じのとおり、iPhone X には「顔」認証技術が採用されている。

これを「ホームセキュリティ」に導入したらどうなるだろうか? 予め家族の「顔」を登録しておくことにより、彼らの顔が「カギ」になり、自宅のドアをロックしたり、ロックを解除したりすることが可能になる。何の手間も要らないし、パスワードもアプリも必要ない。まさしく、フールプルーフ(間違えようのない)な機能である。

「顔」認証技術は、他の用途にも使用可能である。例えば、今までに見たことない(会ったことのない)人が自宅あるいは敷地内に侵入した場合、自分にショートメールを送ったり、警備会社に通報することができる。また、文字だけでなく、写真付きで送ることも可能だ。尚且つ、リアルタイムである。

「顔」認証技術には、もうひとつ、重要な論点がある。wavecomp.aiLeapMind(日本企業)といったスタートアップにより、その機能に必要な「新しい半導体」のコストが、ここ1〜2年で、劇的に安価になるだろう。尚且つ、この「新しい半導体」の素晴らしい点は、インターネットを介さず、「顔」認証技術等を使用できることだ。従って、何らかの災害や障害が発生しても機能することができる。

※上記は、LeapMind 社のウェブサイト。

上記以外にも、いくつか紹介すべき新しいテクノロジーがあるが、それはホームセキュリティに限らない

例えば、CherryHome というスタートアップは、カメラのテクノロジーを使い、ただ単にモニターするだけでなく、誰かが家の中で倒れたり、怪我をしたことを教えてくれる。「音声」に関するテクノロジーを使ったBridgeというスタートアップは、叫び声や窓が壊れた音などの「音声」を判別する。さらには「匂い(空気)」を検知するスタートアップも存在する。

「A.I.と通信技術」の進歩は、ホームセキュリティをより「Friction Free(便利)」にする。誰が訪ねて来たのか、訪問者の「顔写真と名前」をSMSで知らせてくれたり、料理の最中に間違って何かを焦がしてしまったのか、それとも、本当に火事が起きたのか? を正確に判別したり、様々なことを可能にする。

ホームセキュリティは「侵入者=犯罪対策」だけでなく、住んでいる人の「安心・安全」を担保し、「快適な生活」を実現するための、より便利で安価で「Friction Free(便利)」なサービスへと進化していくだろう。

ここ数十年、ほぼ無風状態だった米国のホームセキュリティ市場にも、新しいスタートアップが参入し、競争原理と産業構造を大きく書き換えていくことが予想される。

また、ホームセキュリティとは異なるが、日本人の起業家「本間 毅」氏が挑む、米国の巨大住宅市場における挑戦に期待したい!

そして、日本の住宅関連市場にも、新しいムーブメントが起きることを!

※Ron Drabkin, 当社Venture Partner(シリコンバレー在住のシリアルアントレプレナー&エンジェル投資家)のリサーチ結果をもとに、平石郁生(当社創業者)が加筆および編集。