下北沢と西荻窪。

学生時代の僕は、弟と一緒に下北沢に住んでいた。

弟は、弁護士を目指して司法試験の勉強をしていたが、父が他界し、何年に渡るか分からない、さらに言えば、何年挑戦しても合格する保証のない司法試験への挑戦を断念し、実家の福島県郡山市に帰ることになった。そして、僕は仕方なく、下北沢を離れた。その数年後、弟は念願の司法試験に合格した。

弟と二人で住み始めた頃の下北沢は、休日の午前中、トレーナーで買い物に行っても大丈夫だったが、いつしか人気の街になり、週末はHanakoを片手にしたカップルや女子で溢れるようになった。今にして思うと、日本社会がバブル経済に向かう時期だった。毎年のように家賃が高くなっていき、ひとりで払うのは無理があった。

後ろ髪を引かれながら下北沢を諦め、1987年の夏、汗だくになりながら引っ越ししたのは、代々木八幡にあった風呂なしのアパートだった。窓の外は小田急線。窓を開けると、電車の中の人が見えた。救いは、アパートの斜向いに銭湯があったことだ。

さすがに、そのアパートに住み続けるのは耐えらず、僕は井の頭線の東松原から徒歩6-7分、小田急線の梅ヶ丘からも徒歩8分程度のところに移り住んだ。いわゆるプレハブの安アパートだったが、築浅で日当たりがよく、まあまあ快適だった。下北沢に戻りたかったが、安月給の僕には無理だった。

2年ぐらい住んだだろうか? 僕は井の頭線の久我山に引っ越した。都心からはだいぶ遠くなったが、急行なら渋谷から15分。さらに3駅乗れば、吉祥寺。僕は久我山が気に入り、6−7年、住んでいた。

妻は東京生まれの東京育ちだが、方向音痴なのと、生まれ育った東急沿線とは雰囲気が異なり、久我山は好きではなさそうだった。

当時の僕は、株式会社クリードエクセキュートという、ちっぽけな会社を経営していたが、ある時、主力事業(という程の規模ではなかったが)だったDTP(Desktop Publishin)のビジネスからスパッと撤退した。1億5,000万円あった売上が、翌年には1,800万円に激減。僕たち夫婦は経済的に困窮した。

僕は、人生の「何かを変える必要がある」気がしていた。

大前研一氏は、人生を変えるためには、3つの方法しかないと言っている。それは、1. 付き合う人を変える。2. 時間の使い方を変える。そして、3. 住む場所を変える。だった。

他力本願ではなく、自分の意思で変えられることは何か? と考えた僕は、妻の土地勘のある東急線のエリアに引っ越しをすることにした。

妻は、どうせまた途中でやっぱり「東急沿線は止めた」となるだろうと思っていたらしいが、引っ越した先は、目蒲線(現目黒線)と大井町線が交差する「大岡山」という場所だった。既に他界してしまったが、妻の叔母が住んでいた2階建ての戸建ての1階部分に移り住んだ(叔母は代々木上原に引っ越した)。小さな庭も付いていた。

大岡山は、東京でも有数の高級住宅街で、近所には映画監督の篠田正浩氏と女優の岩下志麻さん夫妻の豪邸があった。

高級住宅街の一角の小さな戸建ての家は、住心地は良かったが、その頃の僕たちは、人生で最も貧乏な時代だった。拙著「挫折のすすめ」にも書いたが、3つではなく、4つ100円で売っていた名もないメーカーの納豆しか買えなかった。

詳細は割愛するが、その後、幸運にもネットバブルの最終列車に飛び乗ることができた僕は、ビットバレーの起業家のひとりとしてメディアにも取り上げられるようになり、創業メンバーのひとりとして立ち上げたウェブクルーは2004年9月21日、東証マザーズに上場した。社長(共同創業者)として立ち上げたインタースコープは、ネットリサーチ業界の御三家の一角として数えられるようになり、2007年2月、Yahoo! Japan にM&Aで売却した。

それから8年後の2015年。スーパーマーケットやレストランの店内で野菜を栽培するテクノロジーの開発に取り組んでいた、ベルリン発のInfarm というスタートアップと知り合った。僕が経営していたサンブリッジ グローバルベンチャーズという会社で主催していたInnovation Weekend というピッチイベントを、初めてベルリンで開催した時だった。

当時のInfarmは、プロトタイプのInStore Farm が一台あるだけだったが、3人の創業者と会い、彼らであれば、この壮大なビジョンを具現化できるだろうと思い、事業計画等は一切検討せず、投資をした。

リクルート創業者の江副さんの著書「かもめが翔んだ日」には、痛く心を揺さぶられた。

インタースコープを経営していた頃だった。僕にとっての初めての著作「自分でできるネットリサーチ」の原稿を書かなければいけなかったのだが、そんなことはお構いなしに、渋谷マークシティのスターバックスで、人目を憚らず、泣きながら「かもめが翔んだ日」を読んでいた。

「元リク」のある方から「平石さんは『自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ』を実践されていますよね」と言われたことがある。

その時は、そんなもんかな・・・という程度にしか思わなかったが、改めて振り返ってみると、まんざらそうでもないか、と思う。ネットベンチャーの後、教育関連の事業を行おうとしたり(それは上手く行かなかった)、その後はスタートアップに投資する側になり、極小規模ながらファンドを組成し、今度は、アグリテックといえば聞こえは良いが、野菜を栽培し、スーパーマーケットで販売する事業の日本法人を設立したりと、たしかに、自ら新しい機会を創り出し、それに取り組んで来た。

快晴の土曜日。JR中央線「西荻窪駅」構内に入っている「紀ノ国屋」に行った。店内で「収穫作業」をしてくれているスタッフの陣中見舞いのためだ。因みに、彼女の入社日は、僕の誕生日である。

西荻窪は閑静な住宅街でありながらサブカルチャー的な雰囲気を併せ持っており、どこか下北沢に似た雰囲気がある。ユニークな飲食店もたくさんある。

土曜日はいつもそうなのだが、自宅から西荻窪に向かう道は渋滞が激しい。

Google Map の推薦を信用し、環七から梅ヶ丘へ向かう道を入り、梅ヶ丘駅前を右折。北沢警察署の前を通り過ぎ、突き当りを左折した。角にあったガソリンスタンドはファミリーマートに姿を変え、僕が住んでいたアパートは無かったが、未熟だった20代の頃の自分を思い出した。

最近の僕は、若かった自分を思い出しては哀しい気持ちになる。ノスタルジーで片付けてしまうのはどうにもしっくりこない。その感情の源泉は何なのだろう?

ここには書いていないことも含めて、辛いことはたくさんあったが、それでも、僕の人生は幸運に恵まれている。20代の頃の自分はあまりにも未熟で危なっかしく、よくまあこうしてやって来れたなあと思う。

そんな人生もいつかは終りが来る。生きていることは、それだけで素晴らしいし、そう思える人生を送れているのは、とても幸せなことだ。そんな幸せな人生が砂時計のように残り少なくなっていくのは、どうにもやり切れない。

懐かしい住宅街の道を走りながら、自分の気持ちに気がついた。

Infarm 日本法人の経営。

2015年11月。当時の僕は、サンブリッジ グローバルベンチャーズ(SBGV)という、シード&アーリーステージに特化した投資業務およびシード・アクセラレーション等を行う会社を経営していた。

そのSBGVで、Innovation Weekend という、ピッチコンテストを中心としたスタートアップイベントを運営しており、その Innovation Weekend を初めて、Berlin で開催した時だった。

2014年5月、シンガポールからスタートした「Innovation Weekend World Tour」は、ボストン、ロンドン、ニューヨーク、サンフランシスコ、シリコンバレー等を周り、2015年11月、僕にとって初めての訪問となるベルリンで、Innovation Weekend Berlin 2015 を開催した。

World Tour 開始当初は、ピッチするスタートアップの募集も観客も覚束ず、めちゃくちゃ苦労をしたが、2015年からは順調にピッチスタートアップの応募があるようになり、実は、ベルリンでも面白いスタートアップが25-30社ほど集まっており、募集は締め切っていた。

ところが、Innovation Weekend をベルリンで開催すること知った、ミュンヘンで Story Maker というPR会社を経営するBjoern Eichstaedt という知り合いから、とても面白いスタートアップがあるから是非、ピッチに誘った方がいい!と言って紹介されたのがInfarmだった。

Infarm は、Innovation Weekend Berlin 2015 で優勝し、尚且つ、毎年12月に東京で開催していた Innovation Weekend Grand Finale という、年間チャンピオンを決めるイベントでも優勝した!

当時のInfarm は、パイロット(試作機)を1台、METROという業務用のスーパーで稼働しているだけだったが、2020年7月21日現在、世界中で稼働している InStore Farm は「950台」にまでなった。

僕(ドリームビジョン)は、2016年からInfarmドイツ法人に出資しており、彼等の日本市場参入をサポートしてきたが、2020年2月、遂に日本方を設立し、代表取締役社長に就任した。そして、JR東日本からInfarm ドイツ法人にご出資いただき、子会社の紀ノ国屋Infarmを導入いただくことになった。5年前、ベルリンで初めてファウンダーたちに会った時には、想像さえしていなかった。

さて、そんなInfarm の日本法人を経営することになり、日本市場へのローンチの準備を進めている中で、感じたこと、学んだことを共有したいと思う。

1, 電気自動車やスマートフォンの企画開発・製造・販売と似たような事業構造。

Infarm の事業は「LEDと水耕栽培」により、屋内で野菜を育てて収穫し、販売することである。その野菜を栽培するには「InStore Farm」というハードウェアが必要だが、心臓部は「独自開発のソフトウェア」だ。Apple や Tesla のような事業構造に似ている。

Infarm の事業は、R&D, Crop Science, Supply Chain Management, Marketing/PR, Business Development, Corporate Sales, Finance & Accounting, HR, Academy, Installation Engineering, Software Development, Operation, New Market Expansion, etc.と様々な機能とタスクにより成り立っている。従って、何かひとつ、変更を加えようとすれば、それはすべての部署や機能に影響することになり、入念な業務設計と運用が求められる。Synchronized Swimming の如く、一糸乱れぬ演技が必要不可欠である!

2, Cosmopolitan culture(コスモポリタンなカルチャー)

Infarm では現在、日本を含めて計10ヵ国に進出しており、約600名近いスタッフが働いている。国籍は30ヵ国を超えており、社内公用語は「英語」である。但し、英語を母国語とする人は、20%程度だろう。

従って、お互いに「異なる」ことが前提であり、相手がどのような判断基準に基づいて発言しているのかを理解しようとする姿勢が求められる。一方、日本のような同調圧力はない。極めてオープンで風通しの良いカルチャーだ。

翻って、日本の多くのスタートアップのように、経営者も従業員も株主も顧客も、その殆どが日本人という環境では、ユニバーサル(グローバル)に通用する事業やプロダクトを開発することは難しいということを実感する。

3, Attracts global talents!(世界中から優秀な人を惹き付ける!)

とても嬉しいことに、Infarm には世界中から才能豊かな、そして、人間味溢れる素晴らしい方々が応募してきてくれるし、様々な会社がInfarmを導入したり、一緒に仕事をしようと言ってくれる。申し上げるまでもなく、とても光栄なことだ。

その理由は偏に、Infarm の哲学、理念、ビジョン、実現したい未来にある。

食品の30%以上が、生産後、我々の食卓に並ぶまでの間に「廃棄ロス」になってしまうという現実がある。その廃棄ロスにも「エネルギー」が消費され、CO2(温室効果ガス)が排出されている。それを放置しておいていいはずがない。

国連によると、2050年には、この地球上に「100億人」が暮らし、その「70%」が「都市」で生活することになる。究極の「地産地消」を実現するためには、「都会で野菜(農産物)を栽培し、都会で消費する」のが最も良い。

Infarm は、そのドン・キホーテ的とも言える遠大なビジョンの実現に向けて、既に世界10ヵ国に進出し、前述のとおり、1,000台近い InStore Farm を稼働させている。

崇高な哲学、理念、ビジョン、そして、JR東日本、紀ノ国屋という素晴らしいパートナーのご支援を頂戴し、Infarm 日本法人の経営を仰せつかっていることは、物凄い責任とプレッシャーではあるが、これほどやり甲斐のある仕事はない。

Infarm 日本法人は、僕を含めて、まだたった3人(3人目は、この春、大学を卒業したばかりの Insane Carzy に優秀な女性)だが、地球規模のビジョンを実現するための「仲間」を絶賛募集中である。

ご関心を持っていただけた方は、是非、ご応募いただきたい。

心より、お待ちしています!!

Running Infarm Japan.

The story started back in November 2015 when I was running a Seed Accelerator, SunBridge Global Ventures. We organized our pitch event, “Innovation Weekend,” in Berlin for the first time, where Infarm won the first prize. And we invited them to Tokyo to compete for the grand champion of the year. Then, Infarm won the grand prize.

Infarm, a Vertical Farming startup originated out of Berlin, was co-founded by Erez Galonska and Guy Galonska, brothers, and Osnat Michaeli in 2013.

I myself, technically DreamVision that I’m running, am one of the early investors of Infarm. And we established Infarm Japan as a legal entity in February 20020 to enter the Japanese market. And I’ve become Managing Director at Infarm Japan.

Thanks to JR East and its 100% subsidiary “Kinokuniya,” a premium supermarket in Japan, we’re planning to launch in Japan sometime this year.

Today, I’d like to share what I’m feeling from running Infarm Japan in addition to being an early investor at the parent company.

1, Almost like producing Electric Vehicles or Smart Phones.

To produce “vegetables,” we need “Hardware” such as InStore Farming Units, and also “Software” to control the climates in the InStore Farming Units, to monitor the conditions of vegetables, etc. We’re a hybrid business with Hardware & Software like Apple or Tesla.

It means that Infarm’s business is structured with lots of different functions such as R&D, Crop science, Business Development, Corporate Sales, Marketing, Operation, Supply chain, Installation, and so on, and a variety of talented people.

When you think to design, or change something, it affects everything. Everything has to be synchronized.

To me, it’s very challenging and exciting because all the business I co-founded and was running were Internet-related businesses that Hardware was not involved in. Infarm’s business is innovation itself.

2, Cosmopolitan culture.

We’re globalized both talents and regions. Infarm has almost 600 people today. Those 600 people have consisted of more than 30 nationalities if I remember correctly. English is a common language at Infarm, but native English speaking people are less than 20%.

Since they are supposed to be different from each other, there is no entrainment pressure and an attitude to understand what each other thinks is required. It’s a very open-minded culture.

3, Attracts global talents.

It’s a great honor to have a lot of talented people wanting to work at Infarm, and people from different companies wanting to do business with Infarm.

And I feel great responsibility and pressure. It’s such wonderful circumstances, and I can’t help getting results.

The above is what I feel.

We are looking for people who will be onboard to the journey ahead.

If you’re interested in, please apply from the link below!

https://boards.greenhouse.io/infarm/jobs/4666291002