還暦少年とMidjourney.

子供の頃、母親とスーパーに行くと、偶然に出くわした彼女の知り合いとの会話で30分は待たされた。でも、当時の僕には長く感じられただけで、実際には5-10分くらいだったかもしれない。近所のスーパーに買物に行った時、二組の家族連れがいて、お母さん同士が楽しそうに会話をしている光景が目に留まり、産みの母のことを思い出した。

会社を解散するのは思ったよりも大変だった。過去形で書いたが、実はまだ終わっていない。今年4月30日付けで、Infarm 日本法人の解散登記をし、法的概念として、会社は解散されている。つまり、Infarmとして、日本で事業を行う主体は存在していない。但し、財務的に整理をするための「清算」という手続きを行う必要があり、まだその手続きが続いている。でも、その手続きの殆どは弁護士と税理士の方々が中心となって進めてくれており、HQ側とのやり取りは必要だが、僕が清算手続きの実務を行っているわけではない。

そんなことで、ここ数ヶ月、時間の自由ができたので、The Economist、Wall Street を購読し、Crunchbase等を含めて、可能な限り、海外のメディアを読むようにしている。下図はの今朝 (2023年8月27日 10:15 am JST現在)の時点で、The Economist 購読者に最も読まれた記事TOP5。

それで感じるのは、それらのメディアには、日本のことは殆ど登場しない、ということだ。ここ最近のエコノミストの主な記事は、ウクライナ情勢、プーチン、プリコジン、中国、習近平、アメリカ大統領選、米国経済、地球温暖化等である。今日のニュースレターに珍しく日本の記事があったが、性風俗産業に関する新しい規制に関するものだ。政治でも経済の話でもない。

仕事柄、シリコンバレーに関する記事を意識的に読んでいるが、スタートアップへの投資に急ブレーキが掛かる一方、AIに関しては、バブルの様相を呈していると言っても過言ではない。

但し、AIはスタートアップが取り組める対象ではない。ChatGPTを運営するOpen AI はマイクロソフトから1兆円以上もの投資を受け、対抗馬のひとつ、ディープマインドの共同創設者ムスタファ・スレイマン氏らが2022年に設立した「Inflectin AI」には、Rein Hoffman も出資者に名前を連ね、$1.3B(現在の為替レートで約1,900億円)を調達している。Computing Powerに莫大な費用を必要とし、スタートアップが数億円の資金で始められるビジネスではない。

一方、together.ai というスタートアップが、オープンソースのAI 構築をサポートするプラットフォームとCould サービスをリリースした。

特定のバーティカルに特化したAIサービスの開発が促進され、SaaSならぬ「AI as a Service =AaaS」の時代が来るように思う。

ところで先日、INITIALの「2023上半期 Japan Startup Finance」をもとにしたウェビナーを拝聴した。詳しくは、同社のレポート(無料)をダウンロードしていただきたいが、印象に残ったのは以下の3点。

(ソース:INITAIL)

1つ目は、シリコンバレーに遅れること約1年、日本でも特にレイターステージにおいて、スタートアップへの投資が急減速したこと。2022年上半期は「4,160億円」がスタートアップに投資されていたが、2023年上半期は「3,314億円(前年同期比:約80%)」に減少

2つ目は、資金調達額上位からも評価額ランキングからも、SaaS スタートアップの存在感が薄れてきたこと。

3つ目は、2つ目とセットで語る必要があるが、DeepTech スタートアップが増えてきていること。

要約すれは、ビットバレーから約25年に渡り続いてきた「インターネット」スタートアップ(日本語でいうネットベンチャー)による時代は終わりを迎えているということだ。

スタートアップ=DeepTechスタートアップの時代になるだろう。つまりは、起業家だけでなく、VCをはじめとした投資家を含めて、スタートアップエコシステムを構成する要素が大きく変わっていくだろう。

尚、INITIALのリサーチ対象は「日本のスタートアップの資金調達」であり、そのことには触れていないが、この先、日本のスタートアップおよびスタートアップエコシステムが成長していくには、東証の新興市場(旧マザーズ)に上場することを主要なエグジット(言葉は出口だが、実際はそこからがスタート)とするだけでは、確実に限界が来るだろう。

今のところ、世界第3位のGDP(マーケット)があり、スタートアップというステージであれば充分な成長が可能である。但し、2060年には、日本のGDPは「中国の1/10」になる。いつまでも「国内市場」だけを対象としているなら、スタートアップを語る以前に、日本の存在意義は増々薄れていくのは間違いない。安全保障にも支障を来すはずだ。

最近はそのようなことを口にする人も少なくなってきたが、戦後80年近く経つにも関わらず、未だに実現できていない「Next SONY, Honda」を生み出すにはどうすれば良いか? という「終わっていない宿題」に正面から取り組む必要がある。

僕なりの考えがあるが、またの機会に披瀝するとしよう。

さて、明日(8/27)から、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(通称:武蔵野EMC=Entrepreneurship Musashino Campus)の2年生約30人を連れて、シリコンバレーに行く。主に、僕の投資先のファウンダーや知り合いの起業家、ベンチャーキャピタリストに話をしてもらう予定だ。下の写真は昨年、武蔵野大学EMCとして実施した記念すべき第一回目の模様(投資先のMilesの新オフィスにて)。

僕の記憶が正しければ、サンブリッジ時代から数えて、今年は記念すべき「10回目」のシリコンバレーツアーである

ところで、今回のアイキャッチ画像は、僕がprompt を出し、Midjourney に描いてもらったものだ。生物学的にはだいぶ年を取ってしまったが、気持ちは、EMCの学生(20-21歳)に負けないつもりだ。

おっと、大事なことを忘れるところだった。何年ぶりかでドリームビジョンのウェブサイトをリニューアルした。そして、ブログサイトの「タイトル」と「ドメイン」を新しくした

今後の展開に乞うご期待!

何に資金を投下するべきか?

紀ノ国屋、サミット、コクヨの各店舗からファーミングユニットを撤去してから、そろそろ3ヶ月。Infarm 日本法人を解散し、代表取締役社長を退任してから今月末で1ヶ月になる。法的には「弁済禁止期間中」という期間にあり、まだ「清算会社」としての存在は残っている。

とは言え、実務的には終了しており、次の展開について、毎日、あれこれ思考を巡らせている。

以前に書いたブログでも紹介したが、Precursor Ventures の創業者 Charles Hudson のNews Letter は、これからの人生でやりたいことを考える上で、示唆に富んでいる。

Charles は、Pre-Seed ステージを資金調達額「$1M(¥130/$=1.3億円)」以下と定義しており、Seedステージ、つまり、over $1Mのファイナンスができた投資先と出来なかった投資先では、1ヶ月の「バーンレート(資金燃焼額)」がどう異なるか?を分析している。以下はそのグラフである。

2017年から2022年を比較し、その年にSeedファイナンスをしたスタートアップと、できなかったしたスタートアップを比較したところ、Seedファイナンスが出来た投資先の方が、1ヶ月のバーンレートが高かった。つまり、より資金を使っていたということだ。

ここで注意したいのは、資金をより多く使えば、Seed ファイナンスにたどり着けるという単純な話ではない、ということだ。

データが示していることは、彼が日頃の観察から得ていた感触と合致しているそうだが、Seed ファイナンスに成功した投資先は、Product-Market-Fit(PMF)に至ることができており、自信を持って顧客獲得のための先行投資(先行投資)ができているのだろうと分析している。結果として、Seedファイナンスができなかった投資先よりもバーンレートが増えているということだ。

Pre-Seed スタートアップ創業者の仕事は、投資から調達した資金を使って、PMFを実現するための「Insight(示唆)」を獲得することだ (by Charles)。

当たり前だが、いくら使ったか?ではなく、「何にお金を使ったか?」が重要ということだ。

彼のニュースレターを読んで僕が学んだことは、シード&アーリーステージという、極めて属人的な判断や嗅覚が求められる領域においても「分析(データ化)」と「科学的アプローチ」が必要ということだ。

DreamVision portfolio performance as of 2019

少々振るいデータ(2019年現在)だが、サンブリッジ時代に組成し、ドリームビジョンで引き継いで運営している2つの投資ビークルとドリームビジョンからの直接投資の計28社に関しては、「約8割」が次の資金調達を実現できている。また、生存確率は93%と、自画自賛だが投資パフォーマンスはかなり良い。

問題は、次のラウンドに行けなかった6社は、次のラウンドに進めたスタートアップと何が異なるのか? ということだ。今から当時のデータを確認できるか? は分からないが、出来る範囲で分析してみよう。

僕は約20年以上もの間、インターネット関連業界で仕事をしてきたが、ソースコードは書けないし、エクセルもまったくダメ。でも、嗅覚には自信があることもあり、自分の直観と運の良さに甘えて来たが、これからの人生で僕がやりたいことを実現するには、上述のとおり、「分析」と「科学的アプローチ」が必要だ。

つまり、数値化が得意で、エクセル操作スキルが高く、ちょっとしたコードなら書ける人が必要だ。そして、そこそこ英語ができる必要がある。

そういう人を募集できるように、まずは、ピッチデックを作らないと!

ユニコーンは絶滅するのか?

全世界に衝撃をもたらしたシリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻から約1か月。米金融当局が、金融システム不安を未然に防ぐべく、預金の全額保護に動いたことで最悪の結果は免れたが、シリコンバレーやスタートアップの資金調達環境にどのような影響が出ているのか? そして、それは今後、スタートアップ・エコシステムにどのような影響を、どのぐらいの期間に渡って与えるのか?

現地時間で先週水曜日 (4/5)、crunchbase news に「Global VC funding falls dramatically across all stages in Rocky Q1, despite massive OpenAI and Stripe deals」という記事が掲載された。

実はこの記事の著者 Gene Teare とは直接の知り合いだ。知的でとても素敵な方である。サンブリッジ時代に知り合い、その後も親しくさせてもらっており、何社かCo-Investment もしている、TechCrunch 共同創業者 Keith Teare の奥さんだ。

本題とは少し離れるが、彼女が書いた記事を読みながら思ったことを紹介したい。

彼女は、南アフリカ出身で、Keith との結婚により、一緒にシリコンバレーに移住してきた。知り合ったのはロンドンだったと聞いている。Keithはイギリス人で、二人がシリコンバレーに移住して来てから20数年になる。

毎年、クリスマスシーズンには、家族全員で遠く離れた南アフリカに里帰りしているようだが、異国の地でもこうして仕事が出来ているのは、KeithもGeneも英語が母国語なのが大きいと思う。

もちろん、英語が母国語ではなくても、日本人の知り合いを含めて、異国の地で仕事をしている人はたくさんいるが、それでも、英語が母国語ということのアドバンテージは大きい。意思の疎通でハンディキャップが無いわけで、英語圏への移住であれば、我々日本人と比較して、ハードルは極めて低いだろう。

英語が母国語に生まれたか? あるいは、何らかの理由で、ネイティブと遜色の無いレベルの英語が話せるかどうかは、その人の人生を大きく左右する。

そういう僕自身、中学生の時から、いつかは海外に住んでみたいと思っていたにも関わらず、目先のことに囚われて、未だに日本を出たことがない。英語も自分が思い描いていたレベルには程遠い。

さて、ここからは本題。彼女が書いた記事の内容を紹介したい。

Global VC funding と言っているので、米国のみならず、crunchbaseが把握している限り、全世界でのVCによるスタートアップへの投資金額のことだと理解しているが、2023年Q1のスタートアップ投資は$76B (約10兆円:¥130/$で計算。以下同様)対前年比で「53%」の減少 (2022年Q1は「$162B (約21兆円)」) ということだ。

但し、そこには、OpenAI ($10B。大半がマイクロソフトによる投資)Stripe ($6.5B) への投資(計$16.5B)が含まれており、それを除くと約$50Bとなり、2022年Q1の半分以下になる。極めて大幅な落ち込みである。

また、Every funding stage last quarter was down 44%-54% year over year, a clear signal that the slowdown is not confined to late-stage funding. と説明されており、Late Stage だけでなく、シードステージを含む、すべてのステージで対前年比:44-54%ダウンということで、スタートアップ投資は半減した。

冒頭に触れたシリコンバレーバンクの経営破綻は、今後のスタートアップ投資に大きな影響を与えるだろう。SVBの顧客には、売上が$5M(約6.5億円)未満の20,000社を超えるスタートアップがいたらしく、彼らの預金(大半がVCから調達した資金)が保護されなかったとしたら、どうなっていたか? 仮に、1社平均100人の従業員がいたとしたら合計200万人、50人だったとしても100万人が犠牲になっていた。

尚且つ、彼女の記事によると、SVBの顧客は米国のスタートアップに限らず、米国のベンチャーキャピタル(VC)から資金調達をした国外のスタートアップも多く存在したという。

実は、SVB破綻(その時点では破綻懸念)のニュースを聞いたのは、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(通称:武蔵野EMC)の仕事で米国出張中、SXSWに参加するためのオースティン滞在中だった。

尚且つ、投資先のAnyRoad, CEO & Co-founder の Jonathan Yaffe が、SXSWにパネリストの一人として呼ばれており、現地で話を聞いた。

AnyRoad以外にも、シリコンバレーの投資先には、ModuleQ, Miles等があり、ここには詳細は書けないが、SVB経営破綻のニュースが出てからの72時間、創業者たちがどのような状況にあったかは言うまでもない。事なきを得て、僕もホットした。

ところで、2023年Q1の投資が大きく減少したものの、VCに投資資金が無かった訳ではない。むしろ、Venture Capital (VC) には、業界で言うところの「Dry Powder(投資資金)」は潤沢にあった。

James Ephrati, Lightspeed Venture Partners の試算によると、2022年12月末時点のVCの保有資金は「$580B(約75兆円!)」に上るという。その額は、2021年と同じ額らしいが、前のめりに投資をしていた2021年とは打って変わって、2022年は極めて慎重な投資姿勢に転じている。

cruncbase

詳細な説明は割愛するが、以下のとおり、各ステージ毎のグラフを載せておく。

crunchbase

In the first quarter of 2023, seed funding totaled $6.9 billion, down 44% year over year — a signal that even at the earliest funding stages, investors are pulling back.

2023年Q1の投資額は「$6.9B」で、前年同期比で44%ダウンということだが、2022年上半期は、他のステージが減速する中においても、前年同期比で投資金額は増加していたそうだ。2022年Q4になって初めて、前年同期比で25%の減少となった。

また、2008年のリーマンショック当時もVCによるスタートアップへの投資、特にLate-stageは冷え込んだが、Seed&Early-stage への投資は大きな減少を見せず、Square, Airbnb, WhatsApp, Slack 等は、その頃に創業している。

今回は、全ステージにおいてスタートアップ投資に急ブレーキが掛かっているが、OpenAI(ChatGPT)に代表される Large Language Model のAI スタートアップには、引き続き、投資が行われている。

Early-stage funding totaled $25.6 billion in Q1, down 54% year over year.  投資額$25.6B (約3.3兆円)。対前年比で、54%のダウン!

Late-stage funding totaled $43 billion, a dramatic fall from $93 billion in Q1 2022, but up from $34 billion in Q4.

2022年Q1の$93B (約12兆円) から、2023年Q1は「$43B (約5.6兆円)」と半減以下にダウン!

The billions of dollars raised by OpenAI and Stripe made up 22% of all venture capital raised this past quarter, and 38% of late-stage financings.

さらに言うと、2023年Q1のVC投資額の22%、Late-stage 投資額の38%が、Open AIStripe の2社に投資されている。両社への投資額 $16.5B (約2.1兆円)を除くと、2023年Q1のLate-stageへの投資額は「$26.5B (約3.4兆円)」で、2022年Q4を下回る。

では、このVCによるスタートアップ投資冬の時代は、いつまで続くのだろうか?

次回は僕なりの考察を書いてみたい。

いよいよ米国へご出発です。

先週から、お世話になってきた店舗から我々のファーミングユニットの撤去作業を始めた。Infarm の野菜を楽しみにしてくれていた固定客の方もいらしたようで、日本で事業を開始し、僅か2年ではあったが、Infarm の日本市場からの撤退を惜しんで下さっている方々もいるという声を聞き、とても嬉しく、そして、申し訳なく思っている。

そんなことで連日、深夜仕事の日々が続いており、50代最終コーナーを走っている人間には、体力的に厳しく、昼間の集中力を保つのが難しい。

実は、今までの生き方を改めたいと思っている。

実際、仕事に関しては、3月末で、Infarm 日本法人を解散するわけで、大きく変わるのは言うまでもない。

二人の子どもたちは、これから益々お金が掛かる年齢に差し掛かり、妻はこの先のことをとても心配している。僕も心配じゃないと言えば嘘になるが、何とかなると思っている。

Infarm の店内ファームの撤去作業に話を戻すと、行き帰りのクルマの中で、That Was The Week というポッドキャストを聴いている。

知己を得たとまで言うと烏滸がましいかもしれないが、サンブリッジの仕事で知り合い、10年以上の付き合いになる、TechCrunch 共同創業者のKeith Teare 氏が、彼の友人 Andrew Keen 氏と対談形式で毎週金曜日に行っているセッションだ。シリコンバレーやテクノロジー業界の今がよく分かり、とても勉強になる。

先日のブログに書いた長男との関係は、思っていた以上に、僕の精神状態に影響を与えている。それに加えて、ファーミングユニットの撤去が始まり、物理的に、そして、否応なしに、苦労して設置したファーミングユニットを解体する光景を見ることになるせいか、精神の平穏を保つのが難しい。

昨晩は紀ノ国屋の西荻窪駅店での撤去があった。西荻窪の街は、風情があっていい。チェーン店ではなく、個人経営の個性豊かな飲食店が軒を並べている。

撤去の帰りは、Keithのポッドキャストを聴く気になれず、YouTubeを開けたところ、一時保存リストの下に、Christofer Cross の Sailing という曲のサムネイルがあった。

僕は歌詞のある曲は必ず、どんな歌詞なのか?どんな意味なのか?を確認したい人で、Google で検索してみた。ChatGPTではなく。

すると、以前にも見つけたことのある「およげ!対訳くん」という洋楽の和訳を書いている方のブログに、Sailing という曲ができた背景と歌詞、そして、彼なりの解釈が説明してあった。

僕は仕事上のことは英語で講演したり、ブログを書いたりすることができるようになったが、歌詞の背景やそこに込められた意味を理解するまでの英語力はない。

Wikipediaによると、Christofer Cross が高校生の頃、感情面で苦しんでいた時、年長の友人であったアル・グラスコック (Al Glasscock)に、セーリングに連れて行ってもらっていたことに着想を得て書いた曲らしい。

「およげ対訳くん」に書いてある和訳を読みながら、「たしかに、そうかもね・・・」と思えて、少し気が楽になった。

ところで先程、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(通称:武蔵野 EMC=Entrepreneurship Musashino Campus)の教授会(Zoom)の最中に、一通の簡易書留が届いた。

This photo was taken by myself. At The Venture Cafe in CIC. Sep 24th, 2014

武蔵野EMCの仕事で、3/6 (火) から一週間、ボストンとオースティン(SXSW)に行くことになっている。その必要書類だった。

「いよいよ米国へご出発です」。

旅行代理店の方からの送り状には、そう書いてあった。

ボストンにはサンブリッジ時代、Innovation Weekend というピッチイベントを主催するため、2度ほど行ったことがあるが、オースティンもSXSWも初めてだ。

2006年に創業したドリームビジョンが上手く行かず、晴耕雨読ならぬ、晴「読」雨読の日々を送っていた時、小川孔輔先生から電話をいただき、翌年から法政大学経営大学院(MBA)で教えることになった。

その翌年には、2年半ぶりに Allen Miner と再会し、サンブリッジの仕事をすることになり、Keith をはじめとして、シリコンバレーの人たちとの交流が始まった。

サンブリッジ時代に受託していた大阪市の仕事では、ロンドン、ベルリンとも縁ができ、ベルリンに関しては、ベルリン州政府が行うアジアのスタートアップエコシステムとの接点づくりの「アンバサダー」なる役職も仰せつかることになった。

幾多の失敗をしてきているが、僕は機会に恵まれている。

人生は、簡単じゃない。でも、生きていることは、それだけで素晴らしい。

そう思える人生を送れている僕は、幸せな人間だ。

Infarm 日本市場から撤退のお知らせ

諸事情により日本法人としてのプレスリリースを出すことができないので、お世話になった、そして、引き続き、お世話になっている皆さんへ、私のブログにてご報告をしたいと思います。

ベルリン発祥のVertical Farming (LED/水耕栽培) スタートアップ Infarm は2020年、JR東日本の皆様よりご出資を受け (Infarm 本体へのご出資)、2020年2月に日本法人を設立しました。

日本市場参入の経緯は、BRIDGEにて詳しくご掲載いただきました

日本でも新型コロナウイルスの感染が拡大し、足踏みを余儀なくされましたが、2021年1月、紀ノ国屋インターナショナル(青山店)、西荻窪駅店、そして、サミット五反野店へ、弊社独自開発のInStore Farmを導入いただき、日本での事業をスタートしました。

その後、紀ノ国屋の用賀店、武蔵小金井店、サミットの野沢龍雲寺店、成城店、そして、昨年6月にはTHE CAMPUS (コクヨ株式会社)にも導入いただきました。

また、Infarm Tokyo Plant Hub という生産施設で野菜を栽培し、紀ノ国屋の等々力店、国立店、また、一時期、DEAN & DELUCA 広尾店、六本木店、そして、不定期ですが、LUMINEアグリマルシェでもInfarm の野菜を販売していただいて参りました。

しかし、大変残念ながら、タイトルのとおり、Infarm は日本市場から撤退することになりました。詳しくは、Infarm 本体のウェブサイトに掲載のご案内(英文の下に日本語訳があります)をご覧いただければと思います。

Infarm 販売終了のお知らせ at 紀ノ国屋インターナショナル(青山店)

日本市場での販売終了の旨は今月初旬、各店舗にてご案内させていただきました。また、今月下旬から来月初旬に掛けて、各店舗に導入していただいておりましたInStore Farmを撤去させていただきます。

今までご愛顧いただいておりましたお客様には心よりお礼を申し上げますと共に、このような結果となってしまいましたことを深くお詫び申し上げます。

また、Infarm 本体の株主としてご支援を頂戴しておりますJR東日本の皆様、InStore Farmを導入いただきましたサミット、THE CAMPUS(コクヨ)の皆様、飲食店向けの販売チャネルをご提供下さいましたベジクルの皆様、ルミネのアグリマルシェの皆様には、改めてお礼を申し上げます。

そして、Infarm のビジョンに共感し、お互いの人生の一時期、苦楽を共にしたメンバーに感謝しています。

尚、私は3月末に開催する臨時株主総会にて、日本法人の代表取締役社長を退任し、清算人として、日本法人の清算手続きをして参る予定です。

まだ暫くの間は、Infarm 日本法人の代表者としての仕事が続きますので、日本での事業を通じて得た貴重な経験とこの3年間の総括は、3月末に、改めて申し上げたいと思います。

引き続き、宜しくお願い申し上げます。

直筆の手紙と歩きスマホ。

小田急線が地下に潜ったせいで、下北沢は、僕が住んでいた頃とは異なる街になった。

Photo from Adobe Stock

10数年ぶりに羽根木公園に行き、梅の花を見たあと、すっかりキレイになった世田谷代田駅前に行ってみた。学生時代、駅から徒歩30秒のところに、1年ちょっとだけ住んでいた。大家のお茶屋さんは建て替えたようだったが、なんと、その奥にある木造のアパートは、そのまま残っていた。お風呂も付いていないだろうに、どうやって住んでいるのだろう?

羽根木公園(世田谷区)の梅の花 Photo by myself.

細い路地を抜け、下北沢まで行き、コインパーキングにクルマを駐めた。対面には、学生時代から続いている「都夏」という居酒屋がある。年末に久しぶりに行った時、片岡さんと二人で写真を撮った。お互いの顔に時間の経過が見て取れる。

都夏の片岡さん Dec. 16th (Fri), 2022

弟と二人で住んでいた賃貸マンションは、外装がリニュアルされ、キレイになっていたが、 あれから40年近く経った今も、そこに建っていた。3階まで上る階段の下に、父親に内緒で買ったバイクを置いていたことを思い出す。

大学生の頃、一度だけ、父親に手紙を書いたことがある。生きる意味というか、人生の目的が分からなくなっていた。

全国的にも有名な総合病院で経営の仕事をしていた父は常に多忙にしており、忘れた頃に返事が来た。何が書いてあったかは憶えていないが、その手紙は今も取ってあったと思う。

父とは、ことごとくぶつかった。中学2年生か3年生の頃から高校時代に掛けては、険悪だった。夕飯の途中で家を出て、友達の家に行ったこともある。

いつの時代も、親と子供では、生きてきた社会環境が違うし、テクノロジーも異なる。直筆の手紙を書いていた時代と何でもiPhoneで済ませる今では、考え方も行動も違うのは当たり前だ。

但し、親としては、こういう人間になって欲しいとか、こういうことはして欲しくないとか、程度の差こそあれ、そう思うのは当然だろう。でも、子供にとっては、父親の価値観を押し付けられているということでしかなく、自分の価値観に合わないことは、それが社会の常識とは異なるとしても止めようとはしない。

話をすれば、いつも口論になるくらいなら、自分の子供とは思わず、甥っ子くらいに思った方が賢明なのだろう。親子であっても距離が必要なことは分かっている。但し、理性が感情についていくかは別問題だ。

最近、産みの両親のことを思い出す。

父は、僕の欠点を指摘することはあっても、褒めることは無かった。正確に言えば、人生で一度だけ、褒められたことがある。大袈裟でもなんでもなく、父に褒められたのは、その一回だけだった。自分自身が父親になった今は分かるが、僕に対する愛情と心配が強過ぎるが故のことだったのだろう。

その父が亡くなってから、早いもので35年になる。

父は、産みの母が亡くなった後、母が付けていた日記を読み、彼女がいかに辛い思いをしていたか、自分に対してどんな思いを抱いていたのか、彼女にとっては幸せな結婚生活ではなかったことを知り、愕然としていた。そのせいか、今の母(再婚した女性)と結婚した後の父は、別人のようになった。

家族は心の支えであり、時に難しい存在だ。最も理解し合いたい関係でありながら、最も上手く行かない。問題は僕にあるのだろう。

どうやら僕は、父の遺伝子を受け継いでいるようだ。彼のせいにしては、申し訳ないが・・・。

いつか映画を撮りたい。

太陽が南に傾くと、季節の移ろいを感じる。

※写真:パブリックドメインQ:著作権フリー画像素材集

東側に小さなベランダがある我が家のキッチンには、夏の暑い頃は朝早くから太陽の光が差し込む。朝食を作る際、その光を遮るために、妻はブラインドを下ろす。とても暑くてたまらないから。でも、秋分の日を過ぎた頃から太陽は南に大きく傾斜し、ベランダ越しには光は入らなくなっていく。年齢のせいだろうか、こうして時間が過ぎて行くことを感じると、感傷的になる。

武蔵野EMCは学部名のとおり、アントレプレナーシップを学ぶために創設された。そのために、一年目は、徹底的に自分と向き合うことを強いられる。自分が何者なのか? 自分は何に興味があり、自分の原動力は何で、何が自分を突き動かしているのか? を知るためだ。

そういう僕にとっても、自分という人間を再発見する機会になっている。

武蔵野EMCは、とても素敵な学部だ。様々なバックグラウンドを持つ個性豊かな学生たち、そして、ほぼ全員が、武蔵野EMCの教員としての仕事以外に、世の中の定義でいうところの本業を持っている多様性に飛んだ教授陣。

強いて言えば、教員に外国人がいれば、さらに多様性が広がるだろう。但し、それには、学生たちにも、教員たちにも、英語というハードルがある。そういう意味でも、日本人として生まれたことは、大きなハンディを背負っている。英語教育における政府の致命的なミスだ。

武蔵野EMCで僕が受け持っている授業は、以下の2つ。

1つは、プロジェクトという科目。ビジネスアイディアを考えて、学生という立場(制約条件)であっても、何らかの形で実践することを求められる。起業したり、社会に出てから、自ら新しい価値を創造し、世の中をより良い方向に変えていける人間になるための予行演習のようなものだ。EMCのメインコンテンツと言っても過言ではない。

もう1つは、今年の夏、EMC創設後、初めて実施した「シリコンバレーツアー(研修)」。これもメインコンテンツと言っていい。僕の投資先の創業者たちに、起業に至る自分の人生や取り組んでいる事業について語ってもらい、それをもとに質疑応答(もちろん、英語で!)する。

起業家精神とは何か? 起業するとはどういうことか? ということをリアルに感じてもらうことが主目的だ。と同時に海外、特に、シリコンバレーのような「イノベーションの聖地」で生きている人たちから見た「日本(の危機的状況)」を理解することも大きな目的である。

僕が今、行っていることは、Infarm Japan の経営も武蔵野EMCの教員としての仕事も、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式のスピーチで言った「Connecting the dots.」だ。

ところで、武蔵野EMCには「他人の夢を笑わない」という素晴らしいカルチャーがある。

数週間前、EMCの魅力を伝えるシリーズとして、計10回に渡り、僕のブログでEMCの価値観やカルチャーを紹介した。その一番最初に書いたのが、この「他人の夢を笑わない」というカルチャーだ。

それに勇気をもらって、僕がこの先の人生で実現したいことをブログに書くことにした。

そのひとつは「挫折、喪失、逃避、希望」をテーマにした起業に関する「映画」を撮ることだ。

数年前に読んだ「HRAD THINGS(原題:The hard thing about hard things by Ben Horowitz)」で、一言一句は別として、Ben Horowitz はこう言っている。

シリコンバレーの起業家は、テクノロジーで物事を『効率化』することに興味があり、それがモチベーションになっている。一方、メディアの人たちは『(人の心を動かす)ストーリー』が好きなんだということに気がついた」。

僕は10代の頃、ミュージシャンになりたかった。音楽の才能は無いことに気づき、それなら俳優になろうと思い、ある有名な劇団のオーディションを受けた。300人中5人の一人に選ばれて、オーディションには合格したものの、その道で勝負する勇気がなく、俳優は諦めた。

新人タレントを売り出すための撮影に行かなかったのは、端役でももらってしまったら、後戻りできないと思ったから。30歳を過ぎても売れなかったら、潰しが効かないし・・・。

結果的に、起業家としての人生を歩み、一時期はスタートアップへの投資会社の経営もした。

でも、僕の原動力は、人と何かを共有すること、明日を生きる勇気を分かち合うこと、人の心を動かす何かを創り出すことであり、物事の効率化ではない。エンジェル投資をしているのは、同じ起業家として、彼らの夢や想いに共感し、それを共有したいからだ。

「流浪の月」という映画を観て、改めて、自分自身に気がついた。

自主製作の映画なら、その気になれば作れるかもしれない。

でも、そうではなく、人の心を動かすことができる、その時代を映す俳優や女優の方々が演じ、一流の監督に演出してもらい映画を創りたい。

流浪の月」を製作総指揮した宇野康秀さんのように、自ら創業した会社を3社も上場させて、文句のつけようのない社会的信用力や資金力があるわけでもなく、映画の勉強をしてきたわけでもなく、年が明けて誕生日が来ると還暦を迎える僕に、そんなことができるわけがないと笑う人もいるだろう。普通に考えれば、そのとおりだと思う。

でも、僕が将来、起業するとか、投資会社を経営するとか、それも海外のスタートアップに投資し、その中の1社 Infarm がユニコーンになり、AnyRoadは前述のBen Horowitzが盟友 Marc Andreessenと一緒に立ち上げた「a16z」から資金調達をすることになるなど、小学生の頃の僕を知っている人の誰が想像しただろうか?

20代の頃の僕を知っている人でさえ、僕が今、こういう人生を送っていることを想像した人は誰もいないだろう。

まずは「流浪の月」の脚本を購入した。

すべては「夢」と「想い」を持つことから始まる。

僕はそう信じている。