ベンチャー企業の経営者は、住宅ローンが借りられない。

僕がインタースコープの経営をしていた頃、人生で初めて「マンション」を購入した。41才の時だった。住宅を購入するという意味では、かなりの「遅咲き」である。

28才で「初めての起業」をしてからの9年間は鳴かず飛ばずで、その間の平均年収は、おそらく「450万円」程度だったと思う。一時期は、そこそこの経費を使えていた時もあったが、本当に貧乏な時は、世帯年収で300万円という時代もあった。

今で言う「下流社会」の最先端だった(苦笑)。それも「下流起業家(笑)」である。

そんな苦節9年間を経てインタースコープを立ち上げて、ようやく世間並みの年収にはなったが、なにせ「蓄え」というものがなく、尚かつ、ナケナシのお金はインタースコープの資本金に化けているのだから、マンションを買うにも「頭金」がなかったのである。

一生懸命に頑張っていた僕を神様は見捨てなかったのか、創業に携わったウェブクルーの上場に伴い、多少の株を持たせてもらっていた僕は、マンションの頭金を払うお金を得ることができた。

しかし、いざ、マンションを買おうとすると、なんと「ローンが組めない」ことが分かった。インタースコープの社員は何の問題もなく住宅ローンが組めるのに、経営者である僕は「審査」が通らないのである。

要するにこういうことだ。

ベンチャー企業の創業経営者は、その殆どが会社の「借り入れ」や「リース」の「保証人(債務保証)」になっているので、その時点で既に、住宅ローン以上の「債務」を抱えているようなものだ。だから、それ以上の「与信枠」は与えられないのである。

インタースコープの場合、ベンチャーキャピタルから資金を調達しており、ちょっとやそっとのことでは潰れない財務体質(実際に超優良なバランスシートだった)にも係らず、日本の銀行というのは、ベンチャーの経営者にはお金は貸してくれないのである。

なんとかあの手この手で画策し、やっとのことでローンを通してもらったが、僕にコネが無かったら、今のマンションは諦めざるを得なかったことになる。競争率「7倍」の抽選に当たったにも係らず・・・。

ところで、つい最近読んだ「アマゾンのロングテールは、二度笑う(超お薦めの本である)」の著者の鈴木貴博さんとは、彼がネットイヤーの取締役をしていた頃に何度か会ったことがある。

彼がボストン・コンサルティング・グループを辞めてネットイヤーの創業に参加した後で、イオンカードの勧誘をされて入会しようと思ったら「審査が通らなかった」と、その本の中で述懐していた。僕には彼の気持ちが痛いほどよく分かる。

ベンチャー企業の創業者というのは、世間で言われるような華やかなイメージとは裏腹に、社会的信用が「ゼロ」に近い存在なのである。上場しなければ、「社会人」とは見なされないということだ。

ところで、昨年の夏にドリームビジョンでは増資をした。

出資引受を打診するために「投資家」の方々に提出した「事業計画書」の表紙に僕が書いたフレーズは、「リスクを取ってチャレンジする人がリスペクトされる社会の実現を目指して」である。

「悠生(僕の子供)」に誓って、僕は必ず成し遂げる。

アマゾンのロングテールは、二度笑う 「50年勝ち組企業」をつくる8つの戦略/鈴木 貴博

¥1,680 Amazon.co.jp