社外取締役の仕事

12年来の友人である岡村氏が創業した「ラソナ」という会社の取締役に就任して、約3ヶ月になる。

商法的な意味であれば今までにも何社かで社外取締役に就任したことがあるが、実際にその責任を果たす(行動を伴う)という意味では今回が初めてだ。これは、僕自身にとっても非常に為になっている。

自分自身を含めて、創業する人というのは当然のことながら自分のやりたいことがある。なので、こちらが社外取締役として色々と意見を言っても聞き入れないことが多く、機能しないことも多いのではないかと思う。いつだったか、グロービス創業メンバーのひとりで当時COOをしていた(現サイバード)加藤さんが、ワークスアプリケーションズのことについて話していたことが印象に残っている。

加藤さんが話をしていたのは、ワークスアプリケーションズの牧野さん達がある会社を買収する際に、その理由として、買収先企業には「優秀な人材がたくさんいる」ということを挙げていたらしいのだが、加藤さんが外部の客観的な目で判断すると、それではペイしないということを牧野さん達に進言したらしいのだが、なかなか聞き入れてもらえなかったということだ。また、加藤さんは、結果的にはフルタイムとしてジョインすることになったサイバードについても、社外取締役の立場で取締役会で色々な進言をするが、なかなか聞き入れてもらえないことがある、ということを言っていたことがある。

僕にとって2度目の起業にあたるインタースコープの場合、僕と山川さんという2人の創業者がいたり、ある時点からは我々創業者よりも外部株主の方がシェアが大きくなっていたこともあり、ワークスやサイバードの事例とは少々異なるかもしれないが、やはり、大なり小なり、そういうことがあったように思う。

さて、話をラソナに戻すと、創業者であり社長である岡村氏は、ラソナを創業する前はスペインで画家として活動していたという非常に変わった経歴の持ち主である。それ故に、ロジカルシンキングだの戦略思考だのという世界には疎いし縁遠い人だが、右脳的な勘で物事の本質を理解する能力に長けており、ある意味で僕と似ているかもしれない。

おもしろいと思うのは、人間は常に「相対的」な関係によって、お互いの役割が決まるということである。

僕はインタースコープ時代、クライアントに対してコンサルティングをする場合には、当然のことながら、論理的に物事を整理して話をする(それが仕事であるので)が、いざ、自分自身のことになると、感覚的な部分が勝り、時として論理性を欠くことが多々あったように思う。

ところが、ラソナにおいては、岡村氏が常に自分の思考パターンに任せて話を展開するので、最初と最後では話のテーマがまったく異なることが日常茶飯事であり、僕は「論理性」によって彼の話を整理し、現実的な解を探ることになる。

言ってみれば僕の仕事は、彼のやりたいことを踏まえつつ、それが論理的に成立するのかしないのか?を整理していくことであり、客観的に判断して、彼のやりたいことには勝算があるかないか?を分析することである。また、事業戦略を考える場合、その内容もさることながら、それを具現化する社内のスタッフのことを考える、つまり、組織デザインと運営面のことや、財務的観点から実現リアリティを検証する必要があり、僕がやっていることは、まさしく「経営企画部」的な仕事である。

今日もドリームビジョンでは、今後の事業戦略についての議論をしていたが、将来的に「投資・育成」機能を持つ必要があるという話をしており、僕が今、ラソナの社外取締役としての仕事をしていることは、その時にとても役に立つように思う。

起業家の意志を尊重しつつ、客観的に状況を分析しながら、どうすれば実現リアリティが増すかを考える。自分自身が起業家であることを活かして、本来の意味でのハンズオン投資をしたいと思う。