第1回 前刀 禎明氏 – 法政大学MBAとの共同講座 2006/7/26 (1)

前刀 禎明 氏

慶應義塾大学大学院管理工学修士課程を修了後、ソニー株式会社に入社。
その後、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー・ジャパンを経て、 AOLジャパンのマーケティング及びコンテンツ両部門統括のバイスプレジデントに就任。

1999年、株式会社ライブドアを創業し、代表取締役社長兼CEOに就任。

2004年4月、アップルコンピュータ株式会社に入社。元アップルコンピュータ日本法人 代表取締役 兼 米国アップルマーケティング担当バイスプレジデントとして、日本におけるアップルのマーケティング活動全般を統括。

現在、創業準備中。

今までの仕事について ~ モーメンタム・ビルディング

写真:前刀 禎明氏

こんばんは前刀です。ターニングポイントとセルフイノベーションということで、お話をさせていただきたいと思います。

まずターニングポイントの話、その後に、セルフイノベーションの話をさせていただきます。
まずターニングポイントですが、私がどういうビジネスキャリアを歩んできたかというと、最初にソニー、その後ベインアンドカンパニー、ウォルトディズ ニー、AOLそして、ライブドア、アップルとなります。で、ここにきて何の肩書きもないし名刺もないような状態になっています。

今までの中で、いくつかターニングポイントがあったわけですけれども、レジュメでいくらブランドが並んでいても実質的に、人を見ないと人の価値というのは 量れないと思っています。そこで、ターニングポイントの中でも、最後に取り組んだ、いままで、直近でやっていたアップルのことを、少しご紹介します。

今、アップルはiPodとデジタルミュージックのリーディングカンパニーになっているわけですけれども、2年前のプレス発表のときに、「これからアップ ルって言う会社はマックを売っている会社だけではなくて、デジタルミュージックのリーディングカンパニーになる」と言いました。

当時、日本は他国に類を見ないMD大国で、ポータブルミュージックプレーヤーといえばMDであり、ソニーとかパナソニックのホームグラウンドですか ら、圧倒的にMDが強かった。そんなところに、iPodは強烈なこの”goodbye MD”というメッセージをぶつけたわけです。そのために、どういう風に大きくモーメンタムをつくって、iPodの勢いを増していくかっていうことを、いく つかやりました。

iPod miniの発売当日はITとかデジタルとかから一番遠い人も、iPodという名前をたった一日で覚えた日だったのではないでしょうか。ファッションアイテ ムとして、洋服とコーディネートする形、こういうアプローチはいまだかつて、他のメーカーはやったことはなかったですね。

このiPod miniを出したことによって、デジタルデバイスの性能がいいというのは当たり前で、感性に訴えるデザインやその楽しさ、そういったあたらしい商品価値を 追求できたといわれています。iPod miniで勢いをつけ始めてから、アップルの中でもマーケティングの考え方、マーケティングの中で重要とされることがいくつか若干変わってきています。

最初はとにかくモーメンタムをつくろうと。これはモーメンタム・ビルディングといって、非常に重要な言葉になります。そして続いて、デマンドを作っていき ましょうっていう話で、もっと言うと、積極的にデザインや欲求を高めていく、そういったものを作っていくという表現になってきて、最近では、デザインやそ ういったものをクリエイトしていきましょうと言うことがキーワードになってきてます。

もうひとつiPodの影響は音楽の楽しみ方を変えたということですね。今まであったパッケージメディアを中心としたポータブルミュージックプレーヤーか ら、ハードディスク、フラッシュメモリーを採用して、自分の持っているミュージックライブラリーを、すべて持ち歩くというところで、パッケージメディアか ら一段飛躍した、別次元の楽しみ方を作り出したことです。圧倒的なポジションを取っても、そこに甘んじるのではなく、常に進化を続けています。

たとえば、iPod miniはあれだけヒットしたのですが、昨年iPod nanoを出したときに、iPod miniはやめて置き換えています。普通の日本のメーカーであるならば、やめずに残しますね。そして気がつくとやたらめったらラインナップが増えて、どれ 買ったらいいのかよくわからない。そのやり方は、最終的にはブランド力を弱めることになります。実はiPodも、昨年写真が見れるので、iPod Photoっていう名前を一時期使っていたんですけれども、これも本社にいって、iPod ~っていうのを増やしすぎると、ブランド力を落とすからやめろと言って、iPod Photoというのは、その後なくなりました。

自分の可能性 ~ セルフ・イノベーション

写真:前刀 禎明氏

セルフイノベーションというところになるんですが、1946年の1月、ソニーの前身である東京通信工業株式会社ができる4ヶ月前ですね、ソニーの創業者井深さんがこんなことを書かれました。

「真面目ナル技術者ノ技能ヲ最高度ニ発揮セシムベキ自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設」という設立趣意書をお書きになっているんですね。

ここに、いろいろなことが書いてあるんですけれども、特にこの中で好きな言葉が「他社ノ追随ヲ絶対許サザル境地ニ独自ナル製品化ヲ行フ。」というところです。圧倒的に強いビジョン、これがイノベーションを生んでいくということですね。これがソニーの理念になるわけです。

それを受けて、AOLはどういうことをやってきたかというと、AOLはナンバー1のインターネットサービスをやっていますけれども、AOLは次のような ミッションで事業を行っていました。「生活の中心となるべき(電話やテレビなど)のようなグローバルメディアを作ろう」と「もっと価値のあるもの(IT) を」ですね。

この当時からAOLはユビキタスという言葉を言っていました。多分今から10年以上前です。今では当たり前の言葉を、誰も使っていないころに、新しいコン セプトでサービスを作って、技術ではなくコンシューマーである、そしてコンビニエンスつまり利便性が最も重要であるということを言っています。

その次はウォルトディズニーです。ウォルトディズニーにも学ぶべきことはいくつかありますが、そのうち好きなものをご紹介します。ひとつは有名な言葉ですね。

”you can dream it, you can do it”。夢見ることができて、実現することができる。夢すら見ることができなければ実現はできないということですね。ディズニーといえばテーマパークなん ですけど、このこういうコンセプトでテーマパークを作っていったわけです。さらにですね、成功の秘訣、特に秘密はないともいっています。

”keep moving forward”。常に前進をしていくこの、前向きな姿勢が、今のディズニーを作っているわけですね。

アップルのスティーブ・ジョブスも、まあ、いいことを言っているわけなんですけれども、実は、昨年のスタンフォードの卒業式のときにこう言いました。
”stay hungry stay foolish”。これはスティーブ・ジョブスが考えた言葉ではなく、彼が若いときに見たある出版物に書かれた言葉を引用して言っています。この言葉を卒業生たちに、是非送りたいといっています。

さらにですね、人生っていうのは時間が限られていると、だから、時間を無駄にするべきではない、他の人のために無駄にするべきではないと、自分の心の中にあるやりたいということ、これにしっかり耳を傾けなさい、自分の感性を信じなさいという風に言っていました。

これらから学ぶべきところは、やはり素直に学ぶ力は誰にとっても重要であること。これは私も含めてですけれども、常に現状に甘んじることなく、自分を変えていくちから、これがすごく大切である。ということですね。

まとめると、自分の可能性、これから先々の可能性に限界を作ってはいけないということ。明日の自分には無限の可能性があるということを、皆さんにぜひとも送りたい言葉だと思います。