第08回 津田 全泰氏 vol.2 (4)

第08回 津田 全泰氏 vol.2 (4)

「目的」は明確だった。

津田さんには、フォートラベルを創った目的が、明確に「2つ」あった。

「一つ目は、自分で良いWebサービスをつくることで、『インターネット業界にデビューしたい』ということ。ずっとネットで起業を志して、5年間の修行期間を経て、楽天トラベルは立ち上げたものの、それは僕の作品ではない。楽天市場だって三木谷さんの作品だと思うのです。僕は自分の作品をきちんと出して、当然、デビュー作、最初の作品が良いかどうかはとても重要で、それがずっと残って、自分が死ぬ時に、俺、これ作ったんだよと思って死にたいと思っていました。そういう意味では、(いずれ自分の手を離れるとしても)成長するような作品を生みたいというのが明確にあった。

二つ目はそれでちゃんと『お金』を得たいということです。アメリカでは、普通、起業してキャピタルゲインを得るのは当たり前の考えなので、当然それは狙いたい。ただ、IPOなのかバイアウトなのかというと、一生、同じサービスをやっていくというイメージはできなかったので、キャピタルゲインはバイアウトで、と考えていました。当時は、IPOしたら、ずっとやっていかなければいけないみたいなイメージを持っていたんでしょうね」。

僕は津田さんの話を聞いていて、「この人は凄い!」と思った。あの若さで、そこまで「目的を明確に設定する」ことができる人はそういないし、起業する人であれば「株式公開」をして「名誉」を得たいと思うのが人情である。

それを彼は、自分の「欲していること」と「やりたいこと」を冷静に分かっていたのである。

「先ほども言いましたが、僕はキャピタルゲインを得るのはバイアウトだと決めていましたので、価格.comからそういう話があった時、『両立するな』と思ったのです。つまり、価格.comはC寄りのメディアじゃないですか。うちも結局やっているのは、C寄りのメディア。リクルートというのはB寄りのメディアじゃないですか。そういう意味では、価格.comというのはポジショニングがうちと一緒なんですね。一方で、楽天トラベルや一休というのは旅行会社なので、あそこがホテルと契約しているといっても、基本的には、彼らは束ねて売るというモデルです。僕らは、一休や楽天の価格を比較して予約できるという比較サ-ビスなので、それは価格.comと同じ。そういう意味では、旅行分野をやっていない価格.comで、ビジネスモデルやマインドがC寄りで同じなので、いずれ僕が離れることがあったとしても成長できる。僕がいる間だって、トラフィックがもらえるし、上場企業の信用もある。ある意味では、価格.com しかなかったというぐらいベストな相手。まだスタッフも僕含めて3人しかいない、そういう会社に、破格のバリュエーションをつけてくれたというのは、本当に光栄でした。まだ10ヵ月しかサービスをやっていなかったですけれど、目的はハッキリしていたのです」。

価格.comへの売却後、上場企業の子会社という信用力と価格.comからのトラフィックを獲得し、フォートラベルは、さらに順調に伸びていく。売却から1年後には、価格.comの売上と利益で、それぞれ10%程度の貢献ができるレベルまで成長した。