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ビジネスとしての旅館業1


旅館業 盛衰の歴史                      


著者プロフィール:
某大学商学部商学科 中退。豪クイーンズランド州某州立大学School of Business Major in Hotel Management 卒業。
在学中、同国内のホテルにて勤務。
その後、家業であるホテルに入社(専務取締役)。同社にてレストラン、大規模小売店の新事業を手掛ける。さらに、老舗旅館をスクラップ&ビルドし、リニューアル。2007年、不動産会社・事業用資産活用コンサルティングを主とした新会社を設立。
現在、某国内ビジネススクールに在籍中

旅館業を取り巻く環境

この文章をお読みになっている皆さんは、旅館といえば何を思い浮かべますか?
温泉や温泉街、芸者さんや露天風呂等々、色々なことを想起されると思います。
中には熱海の倒産旅館通りを想起される方もいらっしゃるでしょう。一時は数年前の「癒しの宿」ブームで再起したかのように思われましたが、そう簡単には行きませんでした。
皆さんよくご存知だと思いますが、旅館業をとりまく環境は非常に厳しいと言われています。では、なぜ厳しいのでしょうか?どのような経緯で現状に至ったのでしょうか?”超”がつくほどの私的な持論ですが、旅館業の発展経緯を簡単に説明して、上述の問いに答えたいと思います。


※上記クリック拡大参照


団塊の世代の波と近代旅館業

団塊の世代が大量に就職し、急速に首都圏に人口流入した昭和40年代、「社会人需要」が伸びました。
居酒屋チェーンや紳士服専門店などの急成長がその代表です。
旅館業界にも会社単位の団体旅行ブームが到来し、活況を呈しました。私は昭和49年生まれです。旅館の隅っこに住んでいましたが、毎日大型バスが到着し、たくさんの芸者さんが宴席に入り、酔っ払いがケンカをし、お祭りのような毎日だったのを覚えています。皆が「忙しい、忙しい」と目を吊り上げながら、希望に燃えていたのを覚えています。
「明日はもっと良い日になる」と信じていました。子供ながらとても楽しい毎日でした。

この時期は、増え続ける団体需要を受け入れる為に首都圏からバスで1~2時間の温泉地である熱海、伊東、伊香保、鬼怒川、石和などに大型旅館が急増しました。我が温泉地も首都圏マーケットに加え、地元の企業団体需要に乗り、旅館数も増えました。近代旅館業の事業モデルが確立したのもこの時期です。


※上記クリック拡大参照

この事業モデルは時代の力が構築させたのだと思います。外部環境に対応するのが企業戦略であるのは分かります。しかしこの外部環境はあまりに特異であったのではないでしょうか?

そもそも旅館業は施設集約型と労働集約型の両面を持っており、ハイリスク・ローリターンビジネスです。
この無理なビジネスモデルを時代の力が後押しをしたのです。急増する団体需要に多大な設備と人海戦術で対応してしまいました。このようなモデルが全国を席巻してしまい、結果として「常に高稼働(客室・人員ともに)でなければ収益性が保てない」「多大な借金で建設してしまった宿泊棟に団体客を詰め込まなければ借金の返済が出来ない」。残念ながら30年間も団塊世代の団体旅行ブームは続きませんでした。即ち、特異な団塊世代の特需に翻弄されて、回収に数十年掛かってしまうコンクリートの塊と非効率的なサービスが”デファクトスタンダード(業界標準)”となってしまったのです。


競争の超激化

ここで注目しなければいけないのはコンクリートの塊である「施設」です。旅館は一度建設してしまうと、後戻りが出来ません。最近は湯布院に人気があるからと言って、ホイホイと旅館を湯布院に動かせる訳がありません。倒産すれば施設を解体する費用などありませんから、廃墟で残ります。この不利な点が足かせになり、鬼怒川や熱海の倒産旅館通りが出来上がったのです。

更に競争を激化させているのが超低価格旅館の登場です。倒産または廃業寸前の旅館をあらゆる手法を用いて安く入手し、他が真似できない料金で凄まじい集客を行います。ただでさえ供給過多の旅館業に追い討ちをかけました。通常、市場から撤退する企業が相次げば、残存者利益を享受できると考えたいところですが、施設が残ってしまう旅館業は、撤退企業が増加すればするほど競争が激化するという皮肉な体質をもっているようです。


癒しの宿ブーム

数年前から、どこからともなく「癒し」という言葉がキーワードになってきました。同時にほとんど無名であった温泉地に注目が集まり、いわゆる「癒しの温泉」が目立ってきました。そして「癒しの宿」ブームが到来したのです。一見このカテゴリーが急成長したかのように見えますが、成長と収益性は必ずしも正比例するものではありません(詳細は後述します)。

しかし、注目すべきは、このカテゴリーが注目を集めると同時に、旅館業ならびに国内旅行業界に激しい業界再編の動きが出てきたことです。「消費者の購買決定フローの変化」と「マーケティングチャネルのIT化」です。


※上記クリック拡大参照


癒しの宿ブーム:マーケティングチャネルの変革

今まで消費者(旅行者)は、旅行業者の窓口にて各旅館の予約をしていたのが大半でした。その購買決定フローは「温泉地を決定⇒旅館を決定」というものであり、旅館の選択は旅行業者の窓口担当者の口利きに掛かっていました。旅館側もその選択肢に取り上げられる為に必死です。大手旅行業者の覚え愛でたくするために接待は欠かせませんでした。

私は今でも衝撃を覚えていますが、このトレンドがある時期を境に大きく変化しました。文芸春秋社出版のクレアトラベラーという雑誌がきっかけになり、旅行業者との付き合いが皆無であった高級カテゴリー・個性派旅館をこぞってマスメディアが取り上げ始めました。ここで第一次「癒しの宿」ブームが到来します。この旅館群がマーケティングチャネルを絞り続けたことで、消費者の購買決定フローに大きく影響を与えました。旅館に直接電話予約するか、旅館が運営しているWEBサイトに直接申し込む以外に予約は出来なくなったのです。
程なくして、じゃらんnet 楽天トラベル一休.com などのWEB旅行サイトの安定性と旅館側の対応も落ち着き、上述の癒しカテゴリーの宿以外の旅館もマーケティングチャネルを変更していきました。旅行者が自分の力で情報を得て、自分で判断して旅館を選択するという大きな意識の変化が生まれ、国内旅行業界が一変したといっても過言ではありません。 


癒しの旅館ブーム:その本心は?

今や書店の雑誌コーナーには、「お忍びの宿」、「癒しの温泉」、「貸切露天」など、癒しの旅館を特集した雑誌が必ず目に入ります。この露出の高さは感覚的に「流行ってるな」と思ってしまいがちです。
しかしながら、前述の通り、そもそも旅館というのはハイリスク・ローリターンの事業モデルです。この新興勢力の癒しの宿カテゴリーは、今までの旅館事業モデルに新しい風を吹き込むことは出来るのでしょうか?結論として本当に儲かるのでしょうか?皆さんの「癒しの宿」に登場してくる旅行客イメージはどのような客層でしょうか?

◆滞在型旅館にのんびり滞在する初老の夫婦
◆露天風呂付客室に泊まるカップル
◆定年退職をしたばかりの旅行を楽しむ夫婦
◆人には言えない仲のお忍びカップル 等々

この旅行者イメージは全て夫婦やカップルなどの2名が中心です。この層を狙うのが最近のトレンドでした。
しかし、この層を純粋に狙っている旅館で、顧客満足度が高い名旅館であっても悲鳴を上げている所が少なくありません。しかし中には健闘されている旅館もたくさんあります。

次回は、その理由は何か簡単に探りたいと思います。


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