
HOME > 挑戦する生き方 > これまでの取り組み > 創業記念 トークセッション 2006/6/1

| 平石: | 松本さんはソロモン・ブラザーズとゴールドマン・サックスという外資系の金融機関で働いていらして、華々しい活躍をされていたと思うんですが、その頃とマネックスを創業された後では何か変わったことはありますか? |
|---|---|
| 松本: | 今は、ゴールドマンにいたときよりも自分の能力が試されるようになっていると思いますね。そんな中で、自分の行動もシャープに削られてきているんじゃないかと。 外資系の証券会社にいたときは、確かにイメージはいいかもしれませんが、高性能の車に乗っているからスピードが出るだけ、という感じでした。そんなに能力がなくてもハンドルをきっていれば曲がるというか、そういう部分があるのかなという気がします。 自分が会社を起こしてからは、自分がハンドルを切り間違えればぶつかってしまうし、社会から直接監視されるようにもなったと思います。 大企業で働いていればある意味守られた立場にいるわけですが、今はどんなことでもお客様から直接苦情が来るので、常に見られているんだという実感もありますね。 |
| 平石: | 外資系の会社は高性能の車だというお話をされていましたが、同じ高性能な車に乗っていても、うまく乗りこなせる人と乗りこなせない人がいるじゃないですか?その違いは何だと思いますか? |
| 松本: | 靴に例えると一番わかりやすいと思いますが、ここにある靴をはきこなせるかどうか、ということを議論しても意味がないですよね? はきこなせたら優秀かと言うと、そういうわけではなくて、ただその人のサイズに合っているか、合っていないかだけの問題だと思います。 その人に合っていないぶかぶかの靴、もしくは窮屈な靴では、左右間違えて履いていても気付かないし、遠くに歩くこともできないんです。 ですので、乗りこなせる、乗りこなせない、という考え方は間違っているんだと思いますね。 自分の足の形とサイズに合った靴を見つけることが一番大事なことなんだと思います。 |
| 平石: | なるほど。では、少し先程の話に戻ります。松本さんは高性能の車を乗りこなしていたんだと思いますが、その後、自分で車から創ってしまおうということで会社を起こされたわけですよね? なんで会社を起こそうと思われたんですか? |
| 松本: | もともと、私は会社を創ろうと思ったことは一度もありませんでした。典型的なサラリーマン家庭に生まれましたし、親は自営業者の悪口ばっかり言っていましたからね。「経費で私物を買ったりしているんだ」って(笑)。 そういう話を幼稚園の時から聞かされていたので、私としては起業という選択肢はありえなかったですね。 実は、今やっているオンライン証券という事業も元々は、当時勤めていたゴールドマン・サックスでやりたかった事業なんです。1998年の9月頃に、ゴール ドマンに「オンライン証券やりましょうよ。これから日本で重要になってきますよ」と提案してみたんですけれども、却下されたんです。 僕は、株ではなく債権のトレーダーでしたし、ネットに詳しかったわけでもありませんから。さらに、ゴールドマン自体も機関投資家向けの会社であって、個人投資家は相手にしていなかったからです。 却下されても、自分としてはあまりに重要なビジネスだと思ったので、自分でやるしかない、と。 なので、自分に会社を創る才能があると思っていたわけではないですし、会社を創りたかったわけでもありません。 ただ、その事業だけがやりたかったんです。 |
| 平石: | 株式公開についてはどう思われますか?事業というのは、自分のやりたいことをやるために起こすものだと思いますが、公開企業になってしまうと自分の好きなことをやるだけではいけなくなります。 私が、株式公開を前提としてベンチャーキャピタルからお金を調達した時に、その時点で物凄いプレッシャーを感じた覚えがあります。 松本さんの中では、マネックスを上場させる前と後では何か大きな変化がありましたか? |
| 松本: | 一般的に言うと、まずは質的な変化でしょうね。 公開前の企業であれば、働いている人達が辞めたくなればいつでも辞められますが、今はそういうわけにはいきません。 公開前は株主が全員いなくなれば会社はそこで終わるんですが、公開後の企業は株券が転々と流転していくので、会社が永遠に続くことが可能ですからね。 株式を公開する人は、そういうことを理解していなくてはいけないと思います。 例えば、結婚をしようという人がまったく相手のことを気にしません、とか、勝手にやりますっていうのでは成り立たないわけです。そこには一定のルールがありますからね。 株式公開もある意味での契約行為なわけです。自分の判断で行うわけですから、責任も伴います。ですから、通常の会社であれば、上場前と上場後では大きな変化があるでしょう。 しかし、実はマネックスでは上場前後であまり変化がありませんでした。というのも、会社設立時から上場させるということが決まっていたからです。もとも と、マネックスはソニーと私が50%ずつ出資して創ったんですけれども、最初の株主間契約の中に「上場させる」ということが書いてあるんです。 その理由は、広く個人のお金を預かる証券会社の株式を、特定の大株主が所有しているのはまずいだろうということです。その大株主の判断で、経営方針が間 違った方向に変わってしまうリスクがあるわけですから。あるいは、公開していないので、情報を外部にディスクローズ(情報開示)しなくてもいい、というの は証券会社として不健康だと考えたからです。 お客様のことを考えると、なるべく早く上場して情報開示をするようにし、株主構成に関しても、シェアの大きすぎる株主がいないようにしようと考えたわけです。 ただ一つ大きく変わったのは、公開することによって「株価」というものがついてくる、ということかもしれませんね。私たちがやっていることは何も変わらないのに、株価は毎日大きく変動する。 昔トレーダーだったからこそ、その動きはちょっと気になってしまいましたね。慣れるまでは結構疲れましたよ(笑)。 特に株価が適正価格から乖離して上がりすぎると、プレッシャーを感じますからね。最近はもう慣れましたけれども。 |
| 平石: | 松本さんは何かの本で、「I know my limitation」という言葉を書いておられたと思いますが、それはどういうことを意味しているんですか? |
| 松本: | それはもう字面の通りですね(笑)。 自分には限界があるということです。時間にも、能力にも。 私は、これはすごく大切なことだと思っています。当社にとっては、事業範囲を金融に絞っている、ということがこれに当たります。売上を上げるために何でもかんでも事業を立ち上げていけばいい、というようなものではないと思っています。 事業をやっている中でも、例えば、やりたいことが10個あったとします。 で、そのときは10個ぐらいなら全部やったっていいじゃないかと思いますよね?景気も良くなってきているし、会社は大きくなってきているし。 とにかくできることから、急いで始めてしまおうと考える人もいます。 しかし、僕はピラミッド状に優先順位をつけてやったほうがいいと思っています。4段のピラミッドをつくるとすれば、1段目が1つ、2段目が2つ、3段目が3つ、4段目が4つ、となりますよね。 そして、上の段(優先順位の高いもの)から順番にやるべきです。 なぜなら、最後の4段目までいく前に、環境が変わってしまうからです。環境が変わったとしても、優先順位の高いものからやっていたのであればそんなに間違ったところには行っていないだろう、というのが僕の考えです。 優先順位をつけなければ、無駄な投資・無駄な労力を使ってしまう結果になるんですが、実際そういう無駄なことをやってしまっている人や会社は非常に多いです。 それはなぜか? おそらく、自分の能力や時間には限界がないと思っているからだと思います。お金をいっぱい持っていると思っていれば、たくさん浪費してしまうのと同じことです。 という理由で、限界を知る、ということは重要なことだと思います。 ただ私の場合、限界を知ったほうがいいから限界を知ろうとしたのではなく、本当に限界だと思っているから、それを自覚しているだけなんですけどね(笑)。 |
| 平石: | 松本さんの限界って何なんですか? |
| 松本: | 限界というよりも、有限という言葉のほうが近いかもしれませんね。 時間も能力も無限にあると思っていると、やるべきことに優先順位もつけられないし、やらなくてもいいことまでやりすぎてしまう。 時間は常にゼロサムだと思っています。 今、あることをやるとすれば、他のことができないわけです。 そういうことを意識している、というわけです。 |
| 平石: | 僕も34歳までは自分の時間が有限だなんて考えたこともなかったんです。でも35歳になったときに、自分が存分に仕事ができる残りの期間ってそんなに長くないな、っていうことがわかってあせりだしました。 その頃からは、自分の人生で何が一番重要なのか、何を成し遂げたいとか、ということを真剣に考えるようになりましたね。 |
| 松本: | 年齢とか病気とかで、自分の時間の有限さに気付くっていうのはよくありますよね。 |
| キャリアの選び方 | |
| 平石: | 時間は有限なのでやること・やらないことを選択しなければならない、という話をしていただきましたが、その選択基準ってなんだと思いますか? 例えば個人のキャリアに当てはめたときに、どうやってやるべきことを選べばいいと思われますか? シンプルなものであれば、「自分の好きな仕事をやる」という道もあるかとは思いますが、どう思われますか? |
| 松本: | 好きな仕事をやるのが一番だとは思います。 しかし、好きな仕事がないのであれば、「好きな仕事を見つけるよりも、いまやっている仕事を好きになるほうが、はるかに簡単だ」と思います。 自分の能力は幸せになるために使うべきものだと思います。 悩むために使うのはもったいないですよね。 今の仕事を嫌々やりながら、自分にはもっと向いている仕事があるはずだって考えるよりも、今やっていることを自分に合わせるとか、好きになってしまうことの方が簡単なんですよ。かつ、幸せになれると思います。 そう思うようになったきっかけは、ある日の飛行機内で流れていた、落語なんです。今はもう亡くなられた、桂枝雀さんの落語のものだったんですが、枝雀さんがお客さんに、 「お客さん、何かおもしろいこと言うと思っているでしょ?違うんですよ。落語は面白いから笑うんじゃなくて、笑うから面白いんですよ。早く笑ってください。」 って、言ったんです。 僕は「なるほど」と思いましたね。 何をするかで悩むよりも、今やっていることを楽しめばいいんだなと。 岡本太郎さんも「幸せは自分の心で決めるんだ」って言っておられました。 ですので、絶対やりたくない仕事は別として、それ以外の仕事をしているのであれば、やっていることに精一杯取り組んでみてください。 そうすると、仕事の成績も上がって、評価されるようにもなり、余計楽しくなってきますからね。 逆に、今漫然と仕事をやっているのであれば、段々仕事の成績も下がるでしょうから、楽しくなくなってくると思います。 要は、気の持ち様、ということですね。 |
| 平石: | ところで、松本さんの仕事の選択基準は何だったんですか? 自分の実力が直に試される仕事がいいとか、自分のコントロールできない割合の大きい仕事は嫌だった、という話を伺っていますが本当ですか? |
| 松本: | そうですね。 コネだとか、上司の機嫌だとか、自分とはあまり関係のところで、自分の仕事の成否が左右されてしまうような仕事は嫌でしたね。 それならば自分の実力がまともに試される、外資系の金融機関で働くことにしようと決めました。 |
| 平石: | 日本の大企業の中には、コネ等によって自分の仕事が判断されてしまうようなことがあると思いますが、既にそういうところで働いている人はどうすればいいと思いますか? |
| 松本: | 皆さん自身の基準を設けて、それに合っているかどうかが大事だと思います。 私の場合は、自分の実力がまともに評価されるところがいい、ということが優先順位が高かったわけです。 ただ一つ、申し上げておくと、すべてを望むことはできない、ということです。 先程の話にもあったように、すべてのものは有限なわけです。 その中で、自分は何を一番大切にしたいのか、何が優先されるのか、を考えなくてはいけません。 本当に捨てられないものは何ですか? 「大企業のブランドネーム」なのか? 「やりがいのある仕事」なのか? 「自由な時間」なのか? それさえ決めて、ピラミッド状に優先順位さえつけられたら、何も悩むことなんてないんですよ。それに従って、アクションをとるだけです。 |
| 平石: | 松本さんにとって、最も優先順位の高いものって何ですか? |
| 松本: | 非常に難しい質問ですね。 今月末に開かれる国際会議の事前質問でも、同じ質問がありましたよ(笑)。 ただ、これは誤解されるかもしれないと思いながらも答えたんですが、それは「プライド」なんです。 「プライド」っていうと、「自尊心」というイメージがあるんですが、そうではなくて、自分の「矜持」というものに近いですね。「Integrity」というか。 絶対やってはいけないことはやらない、屈してはいけないものには屈しない。 いったんこれを放棄してしまうと、事業を継続していくのも難しくなってくると思いますね。 だから、最低限の「誇り」を守ることは重要だと思いますね。 |
| 平石: | 松本さんは、マネックスでは自分のすべてを表現できるように設計してあるからマネックスの目標は自分の目標だ、というようなことをよくおっしゃられますが、松本さんの目標とはなんですか?何のために働いているんですか? |
| 松本: | まず、私が目標としていることを話させていただきます。 私は、金融やマーケットが好きなんですね。 英語も満足にしゃべれなかった私が、マーケットの中で仕事をすることで認めてもらって、その中で成長させてもらえた。 そして、当時100人ぐらいしかいなかった、ゴールドマン・サックスのパートナーにもなり、それなりの扱いをしてもらえるようにもなることができた。 すべて、金融・マーケットのお陰なんです。 だから、第一にマーケットに恩返しをしたい。 本来、マーケットというのは、民主的で、合理性を促すようなプロセスであるはずなんですが、それが日本ではうまく機能していない。 一般的にも、マーケットは恐いところのように言われて、誤解されている。 それは私にとって非常に悲しいことですので、なんとかその状況を打破したい。 |
| 平石: | 松本さんは子供の頃やんちゃな性格だったと聞いていますが、今の松本さんからはどちらかといえばおだやかな雰囲気を感じるんですね。「透明感」とか「崇高さ」というものを感じます。 それは、何かのきっかけで性格が変わったんですか? また、他に考え方が変わった、なんていうことはありますか? |
| 松本: | 性格はそんなに変わってないと思いますね。 権力だとか命令されるだとかっていうことに対する、嫌悪感は今でもありますからね(笑)。 ただ、考え方は変わったと思います。 きっかけは、大学生の時のことです。 あるお金持ちの家の友達に誘われて、共同生活をしながら塾の経営をしていたんですね。 ある日、その友達とアメリカに旅行に行くことになったんですが、その時にその友達の親が私の分の旅費まで全額出してくれたんです。私はそのことに衝撃を受けました。大したお金ではないかもしれませんが、自分の子供でもないのに旅費を払ってくれたわけですから。 そのとき私が思ったのは、「お金というものは、自分でもっていなくてもいいんだ、と。自分の家がお金持ちじゃなくてもいいんだ」ということです。 要は、ビジネスに必要な要素でも、全部自分で揃える必要はないんだ、ということがわかったんです。 ビジネスに必要なものは「能力・コネクション・お金」の3つだと思いますが、その中で自分にあったものを伸ばせばいいんだ、と考えるようになりました。そ れぞれの得意分野を持った人が集まって事業をやっていけばいいんだと気付いたんです。そう考えた瞬間に、お金の束縛からとかれました。 これからは自分にあった能力を伸ばそう、と思うようになりました。 |
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